医療に関わる以上、薬剤師では命に関わる仕事を担うことになります。このとき、すべて完璧でミスをしない人はいません。どれだけのベテランでミスに気を付けていたとしても、調剤過誤や服薬指導のミスを犯してしまうことがあります。

そうしたトラブルに実際に遭遇したとき、賠償責任を問われると大変です。誰でも起こることではありますが、面倒なトラブルに巻き込まれると仕事どころではありません。

そのため、調剤薬局やドラッグストア、病院で働く薬剤師は保険に入っておくと安心です。この保険を薬剤師賠償責任保険といいます。全員が加入しておくべき保険であり、薬剤師賠償責任保険の補償内容を理解しておくことは重要です。

まずは「今の職場がこうした保険に加入しているかどうか」「転職を検討している求人で薬剤師賠償責任保険を導入しているか」などを調べるのは基本になります。ここでは、薬剤師の業務で重要な薬剤師賠償責任保険について確認していきます。

薬局・病院の薬剤師が賠償支払いを命じられた判決事例

当然ながら、これまで調剤過誤によって患者さんの容態が悪くなったり、死亡してしまったりして薬剤師が責任を負うことになった事例はいくつかあります。

急性期病院であれば、容態の悪い急患が訪れるようになります。命に係わる重大な薬を使う場面は多いですし、注射剤の混注で調剤過誤が発生し患者さんに投与されると大変な事態になります。

しかしこうした病院薬剤師だけでなく、薬局の薬剤師であっても過去には調剤過誤で責任を問われ、慰謝料を含めた賠償問題に発展したケースはいくつかあります。例えば、以下は札幌地裁での判決事例です。

2011年7月21日

患者(96才女性)は頻尿治療薬バップフォー90日分を処方されたが、薬剤師は誤って血圧降下剤バソメットを調剤し、投薬した。患者は服用41日後に脳梗塞で倒れ、1カ月後に死亡した。

そこで薬局開設者や薬剤師へ損害賠償請求したところ、裁判所は「不必要な薬を服用させられ、典型的な副作用である脳梗塞で死亡したと認めるのが相当」とし、2,500万円の支払を認めた。

患者は96歳と高齢であり、誤投薬と死との因果関係が争点になったが裁判所は副作用による死亡と判断した。

出典:医療安全にかかる法的知識の基礎

ワーファリンやウブレチドなど命に直接かかわる薬ならまだしも、血圧降下薬を誤って調剤してもこのように責任を問われるようになります。因果関係が不明の状態であっても、薬剤師が調剤過誤を犯して患者さんの容態が悪くなったり死亡したりすると、調剤事故を起こせば責任を問われるのです。

病院薬剤師であれば、重大な薬や注射剤を使用する機会が多いので医療過誤による訴訟リスクを理解できると思います。ただ、調剤薬局の薬剤師でも同様のリスクを生じる可能性があることを認識しなければいけません。

疑義照会の見過ごしも健康被害の対象になる

なお、薬剤師自体が調剤ミスをして患者さんが健康被害に遭遇した場合だけでなく、医師の処方せん内容の間違いを見過ごした場合でも訴訟の対象になります。

薬剤師であると、医師の処方せんに基づいて調剤をすることになります。このとき、明らかなミスであれば疑義照会で指摘できますが、「新人で知識が足りていなかった」などを含め、処方ミスを見過ごしてしまうケースはあります。

そうしたとき、医師だけでなく薬剤師に対しても共同責任が生じるようになります。実際、民法では以下のようになっています。

民法第 719 条 共同不法行為者の責任

数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

これはつまり、「薬剤師が処方せんの内容をもとに調剤した場合であっても、処方ミスを見抜けずに調剤して患者さんに投薬して健康被害を生じた場合、薬剤師にも責任がある」ことを意味しています。例えば調剤・監査・投薬に関わった薬剤師が2人いる場合、医師と薬剤師2人に責任範囲が及ぶようになります。

薬剤師業務をする以上、こうした法律の決まりになっていることは理解しておきましょう。

薬剤師免許のはく奪はないが、保険には入るべき

こうした事例が実際にある以上、薬剤師として業務を続けていれば、誰でも自分の身に降りかかってくる可能性があります。そのため、万が一の事態に備えて保険に入っておくのが適切です。

調剤過誤によって患者さんが死亡してしまったとしても、薬剤師免許のはく奪などはありません。

過去には薬剤師免許の取り消しになった人もいますが、これは調剤過誤ではなく「窃盗を犯した」「覚せい剤を所持していた」「薬局の向精神薬を盗み、ネット上で転売した」などの犯罪をやってしまった薬剤師が対象です。調剤過誤を犯した薬剤師が免許はく奪になるわけではないのです。

自らの意思でした犯罪と調剤過誤は別物です。そのため、薬剤師免許の取り消しまで考える必要はないですが、患者さんに健康被害を生じさせたときは莫大な慰謝料を請求されることはあります。

こうした医療過誤・調剤過誤を完全に防ぐのはやはり難しいです。人間である以上、どうしてもミスは付き物です。そこで、実際に調剤過誤を生じて患者さんに健康被害が及んだときに備えるため、薬剤師賠償責任保険が必要になります。

医療過誤に備える薬剤師賠償責任保険の補償内容

それでは、薬剤師賠償責任保険の補償内容としてはどのようなものがあるのでしょうか。これには、主に以下の2つに分かれます。

  • 薬剤師契約
  • 薬局契約

それぞれ、以下のようになります。

・薬剤師契約

実際に医療過誤を引き起こした薬剤師本人では、当然ながら責任を問われるようになります。そこで、薬局や病院に勤務する薬剤師を対象にした保険が薬剤師契約になります。

薬剤師賠償責任保険に加入していれば、以下のような場面であっても補償されます。

  • 誤った量の薬を調剤し、服用した人の体調が悪くなった
  • 服薬指導で間違った用法用量を説明した
  • 在宅のとき、患者さん宅の物品を壊した

・薬局契約

さらに調剤した薬剤師だけでなく、薬局の代表者が管理者として責任を問われるのは普通です。そうしたとき、経営者に対する保険が薬局契約です。

例えば、以下のよう場面で補償を受け取れます。

  • 従業員の薬剤師が調剤ミスをした
  • 店舗内で事故があった

日本薬剤師会や東京海上日動で保険料や内容は異なる

それでは、どのような種類の薬剤師賠償責任保険に加入すればいいのでしょうか。いくつかの損害保険会社から商品が出されているものの、最も一般的なのは日本薬剤師会が提供している薬剤師賠償責任保険になります。

薬剤師一人の保険料金額は年間1,950円であり、1事故あたり1.5億円まで補償してくれます。先ほどの事例で出した「調剤過誤による死亡事例での慰謝料金額」は2,500万円であるため、問題なくカバーできることが分かります。

また、病院薬剤師の場合は日本病院薬剤師会が出している薬剤師賠償責任保に加入することを考えるケースが多いです。

・損害保険会社(東京海上日動)でも問題ない

また、民間の損害保険会社でも薬剤師賠償責任保険を取り扱っていることがあります。東京海上日動などがこの例に当たります。

日本薬剤師会の薬剤師賠償責任保険に加入するには、日本薬剤師会に入らなければいけません。そのためには年会費が必要になり、薬剤師賠償責任保険への保険料とは別にお金が必要になってきます。そうしたとき、東京海上日動などの民間会社の保険を利用するのです。

東京海上日動の場合、対人・対物に対する基本補償の保険料は年間1,000円です。これにより、1事故あたり1億円まで補償されます。

正社員やパートでは、保険への施設・個人加入が必要

医療事故は他人事ではないため、調剤薬局やドラッグストア、病院で働く薬剤師は全員が加入するべきものになります。

そのため、いまの会社には「自分は薬剤師賠償責任保険に入っているかどうか」を必ず確認するようにしましょう。もし、入っていなければ個人で加入する必要があります。

また薬局によっては、正社員については加入させているがパート・アルバイトは薬剤師賠償責任保険に強制加入させていないことがあります。当然、パート・アルバイトでも調剤事故を起こしたときは同様に責任を問われるようになります。そのため、同様に加入するのが基本です。

なお、理想的なのは「正社員やパート・アルバイトに限らず、薬剤師賠償責任保険を完備している会社で働く」ことです。例えば、以下は横浜(神奈川)にある薬局ですが、パート・アルバイトであっても薬剤師賠償責任保険を完備しています。

正社員は当然のこととして、パート・アルバイトで働く人も薬剤師賠償責任保険を考慮するようにしましょう。

最初から薬剤師賠償責任保険について考えてくれている会社であれば、薬剤師として安心して働けます。またいまの職場を見直したり、転職を考えていたりするときなどでは、薬剤師賠償責任保険に個人で加入するのではなく、最初から制度が整えられている薬局・病院へ転職するのが適切です。

派遣にも薬剤師賠償責任保険が存在する

なお、ここまで述べた薬剤師賠償責任保険はパート・アルバイトに限らず、派遣も同様です。派遣でも同様に調剤や監査・投薬をする機会がいくつもあるため、薬剤師賠償責任保険に派遣会社(転職サイト)の負担で加入できるように考えなければいけません。

薬剤師の転職サイトで派遣求人を取り扱っている会社として、有名な転職エージェントでは薬キャリやお仕事ラボがあります。これらの会社については、転職サイト側の全額負担で薬剤師賠償責任保険に入ることができます。以下の通りです。

もちろん、派遣として働くときは契約期間の長い短いに関わらず全額負担してくれます。

正社員やパート・アルバイトだけでなく、派遣についても薬剤師賠償責任の存在を認識したうえで業務に臨むようにしましょう。

万が一に備える保険への加入は重要

医療事故は日本全国のあらゆる場所で発生しています。故意でなかったとしても、調剤ミスや投薬での間違いは誰でも起こる可能性があります。

そうしたとき、たとえ因果関係が不明であったとしても調剤過誤で健康問題を生じれば、薬剤師は責任を問われるようになります。たとえ医師の処方せんが間違っていたとしても、見過ごしたことによる賠償責任を生じることもあるのです。

このときに備える保険が薬剤師賠償責任保険です。薬剤師が入るべき保険であり、可能な限り勤務先の調剤薬局やドラッグストア、病院の負担で加入してもらうようにお願いするといいです。

薬剤師だからこそ起こり得るものが医療事故です。ヒューマンエラーによる調剤過誤が起こる前に、こうした保険の存在を認識し、事前の加入をしておくといいです。


薬剤師が転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。自分一人では、頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。

一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できるだけでなく、病院や薬局、その他企業との交渉まですべて行ってくれます。

ただ、転職サイトによって「電話だけの対応を行う ⇔ 必ず薬剤師と面談を行い、面接同行も行う」「大手企業に強みがある ⇔ 地方の中小薬局とのつながりが強い」「スピード重視で多くの求人を紹介できる ⇔ 薬剤師へのヒアリングを重視して、最適な条件を個別に案内する」などの違いがあります。

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