薬剤師が新たな職場への転職を検討したり、定年退職を迎えるようになったりしたとき、退職金がどのようになっているのか気になる人は多いです。
ただ薬剤師は医療の専門家であり、お金のことについて詳しく知らない人は多いです。ただ、生活するうえでお金は必ず必要になるため、退職金がどのような仕組みになっているのかについて、詳細に知ることは重要です。
職場が違えば退職金制度は異なってきます。また、薬剤師としてどのような働き方をしているのかによっても、退職金の額や支給の有無が変わってきます。退職金を計算するときは勤続年数も大きく関与するようになります。
そこで、ここでは薬剤師が知るべき退職金制度について確認していきます。
もくじ
転職や定年での退職金相場や平均・計算方法
そもそも、一般的にみて退職金が支給される相場や平均額はどのようになっているのでしょうか。
当然、退職金は職場によって大きく異なります。また、役職によっても違ってきます。そのため、あくまでも平均的な相場でしかありませんが、参考までにしていただければと思います。
まず、退職金の額は勤続年数や企業規模によって異なってきます。これについては、中小企業退職金共済事業本部が退職金額の相場や平均を示しています。自己都合退職(転職など)と会社都合退職(定年、倒産など)では支給される退職金の額が異なります。
それぞれ以下の表のようになっています。表の中で「人=従業員数」を示しています。
・自己都合退職の場合
勤続年数(年齢) | 自己都合退職 | ||
100~239人 | 50~99人 | 10~49人 | |
5年(29歳) | 483,000 | 487,000 | 435,000 |
10年(34歳) | 1,329,000 | 1,357,000 | 1,192,000 |
15年(39歳) | 2,585,000 | 2,704,000 | 2,314,000 |
20年(44歳) | 4,625,000 | 4,617,000 | 3,927,000 |
25年(49歳) | 7,594,000 | 7,217,000 | 5,940,000 |
30年(55歳) | 10,712,000 | 10,164,000 | 8,464,000 |
33年(58歳) | 12,944,000 | 12,349,000 | 9.806,000 |
・会社都合退職の場合
勤続年数(年齢) | 会社都合退職 | ||
100~239人 | 50~99人 | 10~49人 | |
5年(29歳) | 921,000 | 705,000 | 616,000 |
10年(34歳) | 2,142,000 | 1,759,000 | 15,84,000 |
15年(39歳) | 3,802,000 | 3,312,000 | 2,958,000 |
20年(44歳) | 6,223,000 | 5,316,000 | 4,829,000 |
25年(49歳) | 9,298,000 | 7,582,000 | 7,003,000 |
30年(55歳) | 12,636,000 | 10,934,000 | 9,586,000 |
33年(58歳) | 14,797,000 | 13,064,000 | 11,060,000 |
定年 | 17,186,000 | 14,970,000 | 12,817,000 |
※中小企業退職金共済事業本部の資料を一部改変
薬剤師の就職先としては調剤薬局や病院、ドラッグストア、一般企業が主です。このうち、製薬企業や医薬品卸を含め一般企業は数千~数万人規模の大企業になりますし、公務員(国立病院なども含む)の病院は規定が異なるので上記の表に当てはまりません。
一方、中小薬局やドラッグストア、民間病院であれば上記の表が参考になります。大手チェーン薬局は大企業ではありますが、基本的に中小薬局に比べて年収や退職金を含めて待遇が悪くなるため、中小薬局での基準を参考にすれば問題ありません。
転職だと退職金が少ない?自己都合・会社都合での額は異なる
先ほどの表から見て分かる通り、自己都合による退職と会社都合による退職では、退職金の額が大きく異なることが分かります。これは単純に、転職など中途退社の人に対しては退職金を減額する制度を設けているからです。
これ自体は珍しいことではなく、一般企業に限らず公務員であってもそのような規定が存在します。
例えば、国立病院機構(国立病院)であると、勤続10年で辞めたとき、自己都合の退職では「月給の5.22ヵ月分が退職金の基本額になる」とされています(独立行政法人国立病院機構 職員退職手当規程より)。月給が30万円の人であれば、「5.22ヵ月×30万円=1,566,000円」が退職金です。
退職金というのは、このように「月の給料に対して、何か月分が支給されるのか」で計算されます。つまり、ボーナスの計算方法と似ていると考えればよいでしょう。
一方、勤続10年で任期満了(定年)による退職や勧奨退職では8.7ヵ月分です。さらに、職員が多すぎるための整理解雇による場合、病院都合によって勤続10年で強制解雇された場合は13.05ヵ月と退職金が通常よりも上乗せされます。これは、地方公務員でも同様です。
同じことは調剤薬局やドラッグストア、一般企業であっても行われています。そのため、転職を含め自己都合の退職では基本的に退職金が低くなってしまうと考えましょう。
業種ごとの退職金の相場と平均
それでは、調剤薬局やドラッグストア、病院ではどのような退職金相場となっているのでしょうか。
当然ながら、業態が大きく異なるので働く場所によって退職金の額は大きく違います。そのため、業種ごとに分けて解説していきます。
調剤薬局、ドラッグストアでの退職金相場
調剤薬局やドラッグストアで働く薬剤師である場合、新卒入社してずっと同じ店に勤務し、管理職などに就かずに勤め上げたとなると定年時の退職金は約1,200~1,500万円程度になります。
薬局の場合、中小企業が多いです。一般的な中小企業(10~99人)であっても、勤続35年以上働いての定年時の退職金は約1,282~1,497万円です(中小企業退職金共済事業本部の資料より)。そのため、妥当な退職金の額だといえます。
一方で管理薬剤師(店長)であると、調剤薬局やドラッグストアでの退職金の額は上がります。その額は会社によって異なりますが、1,300~1,800万円ほどです。
これがさらに役職が高くエリアマネージャーを任されたり、基幹店舗での管理薬剤師であったりすると、退職金が2,000万円を超えることもあります。
前述の通り、退職金はその人の月収(基本給)から計算されます。そのため、役職が高く多い給料をもらっている人ほど退職金の額は大きくなります。
病院(大学病院、公務員、民間病院)での退職金相場
一方で病院薬剤師ではどうなるのでしょうか。例えば、国立病院であれば勤続35年以上で1,500万円以上の退職金になります。例えば、給料が月35万円だとすると「35万円×49.59ヵ月=約1,736万円」です(独立行政法人国立病院機構 職員退職手当規程より)。
これについては地方公務員も同様であり、退職金の額は1,500万円を超えます。例えば、同じように月の給料が35万円と低く見積もっても基本額は「35万円×59.28ヵ月=約2,075万円」です(総務省:地方公務員の退職手当制度についてより)。
ちなみに、大学病院でも同じように退職金は1,500万円以上です。大学病院によって異なるものの、これについては退職金の支給規定を確認するといいです。
このように、国立病院や大学病院を含め公務員(準公務員)では退職金が大きくなり、高い役職であるとさらに大きな金額を受け取れるようになります。
一方これが民間病院となると、それぞれの病院で退職金の規定は大きく異なります。世間一般的には、たとえ大病院であっても民間病院は中小企業ほどの規模です。
そのため、先に示した「退職金の相場を示した表」を参考にしてください。定年退職の場合、民間病院では1,200~1,500万円ほどが一般的です。公務員ほどではないものの、民間病院の病院薬剤師もそれなりに退職金は確保できます。
退職金の支給は勤続3年以上?会社規程を確認するべき
それでは、退職金がいくら支給されるのかを正確に確認することは可能なのでしょうか。これについては、いま勤めている会社や医療機関の就業規則や退職金規定を確かめるようにしましょう。どれだけ退職金が支給されるのかについては、就業規則や退職金規定に明記されています。
そこからいまの自分の給料を確認し、将来はどれだけの昇給が予想されるのかを計算するようにしましょう。
もし、就業規則や退職金規定をどのようにして確認すればいいのか分からなければ、人事担当者や会計担当者に聞くようにしましょう。個人薬局や数店舗を経営する中小薬局であれば、経営者に退職金制度の規定について確認しなければいけないこともあります。
なお、実際に退職金規定を眺めてみると、以下のように会社独自の規定が記されています。
- 勤続3年以上の正社員でなければ退職金は支給されない
- 自己都合の退職では基本給の〇ヵ月、定年・勧奨退職では基本給の〇ヵ月分を支給する
一般的には、3年以上の勤務によって退職金が支給される会社が多いです。これは調剤薬局やドラッグストア、病院とあらゆる会社で同じです。もちろん中には勤続1年で退職金を出してくれることはありますが、一般的には3年が一つの基準になります。
退職金のない会社はブラック企業なのか
ここまで、退職金が支給されることについて述べてきましたが、そもそも退職金の存在がない職場があることを理解しなければいけません。
公務員であれば全員、退職金が存在します。ただ、一般企業であれば退職金を支給しなくても問題ありません。ボーナスの支給が会社独自の判断に任されているのと同じように、退職金の支給も会社によって異なります。要は、退職金制度がなくても違法ではないのです。
そのため、実際に退職金制度を設けていない薬局や病院は存在します。
それでは、退職金制度のない調剤薬局やドラッグストア、病院はブラックなのかというと必ずしもそうではありません。そうした会社の場合、トータルでの年収が高かったり福利厚生が充実していたりすることが多いです。
例えば、30年働くことで1,200万円の退職金が出るとします。中小企業の退職金相場の表から考えると、これはそれなりに良い額だといえます。
しかし30年で1,200万円だとすると、月々は約3.3万円です。1,200万円という額だけ聞くと大きいですが、月3.3万円ほどしか違いがないのです。そこで退職金がない代わりに、これだけ多く月給やボーナスに上乗せされている場合、30年間で1,200万円もらう場合と同じように考えることができます。
もちろん、給料としてお金を受け取るよりも退職金の方が税率は低いです。そのため単純に比べることはできませんが、このように退職金を年収や月収に回している会社は意外とあります。
特に薬剤師の場合、転職が活発なので同じ職場で長年勤める人の方が少数です。そのため、退職金の額を大きく設定している会社よりも、退職金はなくてもいいから年収を高めに設定してくれている会社の方がありがたいです。
また、そこに住宅手当や家族手当を含めた福利厚生が整っている職場であれば、別に退職金がなくても大きな問題にはならないことがわかります。
高い給料の職場へ転職すれば生涯年収が高くなる
こうした理由があるため、薬剤師では一般人のように退職金に対してそこまで神経質になる必要はありません。
先ほど、国立病院では退職金の額が高いことを示しましたが、そもそもこうした病院では年収が非常に低いです。そのため、調剤薬局やドラッグストアへ転職する人は非常に多いです。早めに薬局へ転職した方が生涯年収は圧倒的に高くなるからです。
退職金という「何年、何十年も先にもらえるお金」のことを考えるよりも、薬剤師である以上はいまの職場環境や給料の状況を考慮した方がいいです。住宅手当などの福利厚生まで考え、トータルで判断するのです。
実際、私は新卒で薬剤師として会社に入社したとき、「自分はこの会社で一生勤めることになるのだな」と考えていました。そうして薬剤師として頑張り、薬の知識をつけ、仕事をしてきたわけですが結局のところ2年半で会社を辞め、他の調剤薬局で働き始めました。
最初の会社では3年勤めなければ退職金は支給されないという規定だったので、私は退職金なしで他の職場へ転職しました。
3年先であっても、どのようなことがあるのか分かりません。これが退職金となると、3年ではなくもっと先の話になるため、薬剤師が退職金に対して神経質になる必要はありません。
・退職金が大きくなるのは定年退職
なお、退職金の額が大きくなるのは基本的に定年退職(会社都合退職)のときです。転職など、自己都合退職では退職金の額は少ないのが基本です。そのため、転職を考えている人は退職金の金額にこだわることなく中途採用の求人募集を探すのが基本です。
支給額は会社ごとに大きく異なりますが、3年勤務してすぐに辞めたとしても退職金は20万円ほどと非常に少ないです。これであれば、転職によってできるだけ早めに年収アップを実現したほうが、優れた労働環境で勤務できます。
退職金はあくまでも定年のときに考えるべきものであり、転職時に気にする意味はありません。
パートやアルバイトで退職金はあるのか
ただ、薬剤師では正社員ではなくパートやアルバイトとして勤務している人も多いです。こうしたパート・アルバイトで退職金は出されるのでしょうか。
まず、パート薬剤師の場合、多くのケースで退職金は支給できません。パートではボーナスを受け取る権利がほとんどの会社でないので、退職金の積み立ても行われていないことがほとんどです。
それでは、どのような場合であってもパート・アルバイトで退職金が支給されないのかというと、必ずしもそういうわけではありません。病院や一般企業だと確実にないですが、調剤薬局・ドラッグストアによってはパート・アルバイトにも退職金を支給する会社があります。
例えば、以下の横浜(神奈川)にある調剤薬局ではパート・アルバイトでも問題なく退職金を支給するとの記載があります。
こうした職場でパート勤務する場合、長く働くことで退職金を出してもらえるようになります。退職金は福利厚生の一つであり、会社ごとに規定がまったく異なります。そのため、数は少ないですが退職金ありの調剤薬局やドラッグストアは存在するのです。
派遣薬剤師では退職金がない
一方で派遣薬剤師はどうなのかというと、退職金は存在しないと考えましょう。どの職場で働くことになっても退職金はありません。
まず、派遣だと正社員やパート・アルバイトのように勤務する会社に属するわけではありません。形式上は派遣会社(転職サイト)に就職していることになります。こうした派遣会社から、薬局や病院へ派遣されて働くことになるのです。
正社員やパートに比べて勤務形態が大幅に異なり、そもそも薬局側に雇用されていないことから、退職金が出されることはないのです。
しかし派遣薬剤師はボーナスや退職金がない分、時給が非常に高いです。福利厚生などは正社員に劣るものの、正社員の薬剤師よりも高い年収を実現できるのは普通です。実際、派遣であれば東京・大阪にある普通の調剤薬局で勤務したとしても時給3,000円以上(年収600万円に相当)が普通です。
派遣薬剤師は時給が高い分、ボーナスや退職金などは支給されないと考えましょう。
ただ、派遣薬剤師であっても産休・育休は取得できますし、社会保険に加入することもできます。企業独自が採用している退職金や福利厚生はなくても、法律で定められた制度は問題なく活用できるのです。
退職金を学び、いまの職場を見直す
ここまで、薬剤師が知っておくべき退職金について解説してきました。
薬剤師の場合、退職金の額だけに着目するのではなく、年収や福利厚生まで含めてトータルで考えなければいけません。同じ職場で何十年も働き続ける薬剤師のほうが少ないため、むしろ退職金だけで求人を判断しない方がいいです。
特に転職を考えている場合、下手に退職金にこだわるよりも早めに優れた職場へ転職する方が圧倒的に得です。例えば公務員薬剤師の退職金は高いですが、早めに調剤薬局やドラッグストアで働く方が生涯年収は圧倒的に高くなります。
なお、正確に退職金の額を把握したいのであれば会社の規定を確認するようにしましょう。人事担当部署に聞けば確実に教えてくれます。
場合によっては、退職金支給のない会社もあります。ただ、それ以上に給料へ反映しているのであれば退職金がなくてもブラック企業というわけではありません。退職金制度は福利厚生の一つであり、会社ごとに規程が異なるので事前に確認しておきましょう。
薬剤師が転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。自分一人では、頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できるだけでなく、病院や薬局、その他企業との交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「電話だけの対応を行う ⇔ 必ず薬剤師と面談を行い、面接同行も行う」「大手企業に強みがある ⇔ 地方の中小薬局とのつながりが強い」「スピード重視で多くの求人を紹介できる ⇔ 薬剤師へのヒアリングを重視して、最適な条件を個別に案内する」などの違いがあります。
これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページで転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。
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派遣薬剤師は給料が正社員よりも高く、時給3,000円以上も普通です。さらには3ヵ月や半年だけでなく、1日などスポット派遣も可能です。「自由に働きたい」「多くの職場を経験したい」「今月、もう少し稼ぎたい」などのときにお勧めです。
インタビュー記事:薬剤師の転職サイト
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