老後で心配になるのが年金です。年金保険料は全員が収めることになりますが、老後に年金がどれくらい支払われるのか気になる薬剤師は多いです。
それでは、実際のところ年金の支給額はいくらになるのでしょうか。また、年金には国民年金と厚生年金に分かれますが、年金額がいくら違うのか理解していない人は多いです。
それだけでなく、薬剤師には日本薬剤師国民年金基金や薬剤師年金保険などの年金も存在します。こうした薬剤師独自の年金についてはお得なのでしょうか。
薬の専門家ではあるものの、年金制度について深く理解していない薬剤師は多いです。そこで、どのように年金を考え、老後に備えればいいのかについて解説していきます。
もくじ
国民年金や厚生年金の受取額はいくらか
薬剤師として働いている人に限らず、主婦の薬剤師であっても全員が加入しているのが年金です。国の制度であるため、国民全員が年金の掛金支払いをすることになっているのです。
このとき、国が運用する公的年金には以下の2つがあります。
- 国民年金
- 厚生年金
自営業や年収130万円未満の人(扶養されている人を含む)では国民年金に加入することになります。どのような低所得者であっても国民年金に加入するのは義務なのです。
国民年金の支給額がいくらかというと、毎月の年金支給額は月5万円ほどです。額は少ないですが、65歳以上になることでこの金額を受け取れるようになります。
一方で厚生年金では、「国民年金よりもさらに支給額が多くなる」と考えるといいです。厚生年金の場合、国民年金よりも多くの年金保険料(年金掛金)を支払うことになるため、その分だけ将来の年金額も増えるようになるのです。
どれくらいの額かというと、厚生年金に40年ほど加入している場合、月15万円ほどの支給になります。国民年金よりも毎月10万円ほど高いと考えるようにしましょう。
- 国民年金の支給額:月5万円ほど
- 厚生年金の支給額:月15万円ほど
このように、加入する公的年金によっていくらの違いがあるのか理解するといいです。
・年金では厚生年金が圧倒的に得
確かに毎月の保険料支払額については厚生年金のほうが大きいです。ただ、国民年金だと全額自腹なのに対して、厚生年金では半額を会社が負担してくれます。
もっと詳しく言うと、薬剤師を含めサラリーマンが強制加入するものとして社会保険があります。社会保険には健康保険や雇用保険などが含まれており、その中の一つに厚生年金保険があります。この社会保険料の負担は半額であり、もう半分は会社が支払ってくれます。そのため、厚生年金保険料の負担額は半分でいいのです。
もちろん、「国民年金の支払い額よりも、厚生年金の保険料負担のほうが大きい」のは事実です。国民年金は毎月17,000円ほどですが、月30万円の給料をもらっているサラリーマンの厚生年金保険料は27,000円ほどです。
ただ会社側が半分も払ってくれており、老後の年金額が国民年金と比べ毎月10万円も増えることを考えると、年金については厚生年金に加入したほうが得だといえます。
薬局転職では社保完備(薬剤師国保ではない会社)が優れる
なお、一般的には正社員勤務をすると強制的に社会保険に入ることになります。また、よほどのことがない限りは社保完備です。
しかし調剤薬局によっては、社会保険に入れないことがあります。薬剤師の業界では変な制度を設けていることがあり、その一つが薬剤師国保です。薬剤師国保は従業員5人未満の会社だと採用できるようになっています。
薬剤師国保の場合、「健康保険料が全額自腹」「厚生年金ではなく、国民年金になる」などデメリットしかありません。経営者にとってみれば負担が減るのでメリットは大きいですが、私たち雇われる側からしてみれば良い点がまったくないのです。
そのため、薬剤師国保を採用している会社は避けるようにしましょう。以下のように、薬剤師求人の中には「社会保険ではなく、薬剤師国保を採用している薬局」が存在します。
正社員で社会保険に入れる権利があるにも関わらず、そうした社会保険に加入しないのはデメリットでしかありません。そのため、個人薬局や2~3店舗運営の中小薬局へ転職するとき、薬局側がどのような年金制度を採用しているのかによって将来受け取れる年金額が大幅に変わってきます。
パート・アルバイトや派遣でも厚生年金に加入できる
なお、このとき気になるのはパート・アルバイトや派遣での勤務です。こうした人たちは厚生年金に加入できるのでしょうか。これについては、問題なく厚生年金に入れます。
正社員に限らず、年収が130万円より上であれば全員が厚生年金に加入することになります。社会保険の一つに厚生年金が含まれるため、「年収130万円を超えた時点で将来の年金額が増える」と考えるようにしましょう(薬剤師国保を採用している会社は除く)。
薬剤師の場合、年収130万円を超えない方が難しいです。薬剤師では最も低い時給でも2,000円です。これで週2回、1日8時間ほど働くと以下の年収になります。
- 時給2,000円 × 1日8時間 × 月8回(週2回) × 12ヵ月 = 153万6,000円
このように年収130万円を大幅に超えます。また、パート・アルバイトで経験を積めば時給2,500円以上になるのは普通ですし、派遣であれば東京や大阪などの都市部でも時給3,000円以上となります。例えば、以下は東京の調剤薬局から出された時給3,000円の派遣求人です。
こうした時給であるため、当然のように社会保険に加入できます。パート・アルバイトや派遣であっても厚生年金については問題なく入れると考えていいです。
公的年金だけでなく、企業年金(確定拠出年金)も確認するべき
なお、薬剤師が考えるべき年金制度は公的年金だけではありません。薬局や病院を含め、会社によっては一般的な退職金以外にも多くの制度を設けていることがあり、その一つが企業年金になります。
退職金は分割で受け取ることはできず、一括での受け取りになります。それに対して、年金制度と同じように分割で受け取ることのできる制度が存在します。これが企業年金です。
企業年金をもらえる人の場合、一般的な厚生年金に上乗せされて企業年金を受け取るようになります。こうした企業年金制度としては、確定給付企業年金や確定拠出年金などが存在します。
私が新卒で入社した会社にも、こうした企業年金制度が存在しました。その会社を辞めたいまとなっては関係ありませんが、企業年金を採用している会社であれば、老後の年金受取額はその分だけ増えるようになります。
例えば、広島にある以下の会社では企業年金(確定拠出年金)を用意しています。
注意点として、確定拠出年金には企業年金(会社側が負担する)と個人負担(全額を自分が負担)の2種類があります。「確定拠出年金を用意している!」とあっても、企業年金ではなく個人負担では意味がないため、これについては転職前に制度がどうなっているのか確認しましょう。
薬剤師のための独自年金も存在する
ただ、薬剤師に特有の年金も存在します。こうした年金まで含めて理解する必要があり、どのような制度なのか学ばなければいけません。
こうした年金制度には以下の2つがあります。
- 日本薬剤師国民年金基金:自営業者が対象の年金制度
- 薬剤師年金保険:独自に入れる私的年金
それぞれの年金は国民年金や厚生年金とは異なり、自分で加入するようになります。各年金の制度について以下で確認していきます。
日本薬剤師国民年金基金の仕組みや解約制度
日本薬剤師国民年金基金に加入できる人としては、「薬局・店舗販売業・配置販売業・卸売販売業に従事している国民年金加入者(国民年金の第一号被保険者)の方」とされています。
つまり、薬剤師でない方であっても、調剤薬局やドラッグストアで働いている人であれば事務を含め加入できます。日本薬剤師会の会員である必要もありません。
特に自営業者の場合、国民年金だけだと将来の年金額が少ないので不安です。そこで、将来のために国民年金基金へ加入することを考えるのです。この「国民年金基金の薬剤師版」が日本薬剤師国民年金基金だと考えれば問題ありません。
支給額については、例えば月に17,245円を25年間支払った場合、「65~80歳:月に3万円」「80歳~終身:月に2万円」で年金を受け取れるようになっています。公式サイトにも実際の給付額が記されています。
出典:日本薬剤師国民年金基金
独自に入る年金であるため、国民年金や厚生年金に比べるとどうしても内容は劣ってしまいます。ただ、日本薬剤師国民年金基金を利用すれば国民年金とは別に、受け取ることができる年金を増やすことができます。また日本薬剤師国民年金基金の場合、加入後に年金額を増やしてもいいし、その反対に減額することも可能です。
・厚生年金に加入している薬剤師は日本薬剤師国民年金基金に入れない
なお、年金基金(日本薬剤師国民年金基金)は公的年金に分類されます。また、国民年金を支払っている自営業者が対象になります。そのため、厚生年金に加入しているサラリーマン薬剤師が日本薬剤師国民年金基金に入ることはできません。
・税制上の優遇はあるが自由な脱退(解約)はできない
また、公的年金であるために日本薬剤師国民年金基金に収めた金額については全額が所得控除(社会保険料控除)の対象になります。そのため税金面では有利です。
しかし、自由な脱退(解約)はできません。国民年金から厚生年金へ移行したなどの事情がない限り、好きなように解約できないというデメリットがあります。そのため、加入時は慎重に検討しましょう。
薬剤師年金保険は私的年金に当たる
それに対して、日本薬剤師会が取り扱う私的な年金制度が薬剤師年金保険です。毎月の保険料支払いは最低3,000円であり、上限は月50万円です。
このとき、ライフステージに合わせて好きなように年金の積立額を変更することができます。例えば、毎月3万円を積み立てていたが、「子供が大きくなって学費が必要になるため月1万円の積み立てに減らす」などが可能です。これについては、日本薬剤師国民年金基金と同じだと考えましょう。
支給額がいくらかというと、例えば月1万円の支払いを25年間続けた場合、終身受け取りだと月に約13,000円の受け取りになります。支払額や年数によって受取額は異なりますが、私的年金なのでやはり公的年金に比べると内容が圧倒的に悪いのは我慢するしかありません。
なお、日本薬剤師会の会員であれば誰でも加入できますが、日本薬剤師会を脱退して一定期間が経過すると、自動的に薬剤師年金保険も脱退(解約)しなければいけません。日本薬剤師会の会員になれば再加入して再開できますが、そうでない場合は一定期間後に解約となるのです。
日本薬剤師会への加入が必須であり、自動解約もあることから、薬剤師年金保険は使い勝手が悪い私的年金となっています。特に理由がない限り私的年金に加入する意味はないですが、どうしても入りたいときだけ薬剤師年金保険を活用するといいです。
老後に備え、年金について学ぶ
ここでは、薬剤師が理解するべき年金制度について解説してきました。一般的なサラリーマン薬剤師にとって関係あるのが厚生年金です。ほぼ全員がこの厚生年金に加入することになりますが、稀に社会保険ではなく薬剤師国保を採用している会社があります。こうした薬局は避けるようにしましょう。
また、パート・アルバイトや派遣についても問題なく社会保険(厚生年金)に加入できます。年収130万円以上であれば厚生年金になると考えましょう。
これに加えて、企業独自の年金(企業年金)が用意されていることがあります。企業年金は会社独自の福利厚生であり、調剤薬局やドラッグストア、病院ごとに異なります。そのため、転職時はどのような福利厚生が用意されているのか理解しておかなければいけません。
ただ、薬剤師には特殊な年金も存在します。その一つが自営業者のための年金であり、これを日本薬剤師国民年金基金といいます。厚生年金に加入している人は関係ないですが、自営業者は加入を検討しても問題ありません。
一方で私的年金として薬剤師年金保険があります。日本薬剤師会に加入し続けないといけないので使い勝手が悪く、内容については国民年金や厚生年金に比べると劣ります。どうしても入りたいときだけ加入しましょう。
年金にはこのように種類があります。薬剤師では私的年金まで含めると種類が多く、少し複雑です。そこで年金について理解し、「薬剤師国保の会社ではなく社会保険か」「企業年金はあるか」などを含めて、いまの会社や転職先を見直すといいです。
薬剤師が転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。自分一人では、頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できるだけでなく、病院や薬局、その他企業との交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「電話だけの対応を行う ⇔ 必ず薬剤師と面談を行い、面接同行も行う」「大手企業に強みがある ⇔ 地方の中小薬局とのつながりが強い」「スピード重視で多くの求人を紹介できる ⇔ 薬剤師へのヒアリングを重視して、最適な条件を個別に案内する」などの違いがあります。
これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページで転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。
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