公務員であれば、全体数としては少ないものの薬剤師としての従事者がいます。こうした公務員の中には、自衛隊の薬剤師として働く人もいます。自衛官として、薬剤師の資格を活かしながら活躍することを考えるのです。

自衛隊は公務員だからこそ試験がありますし、薬剤師国家資格とは別に勉強して受からなければいけません。さらには年齢制限があり、自衛隊の薬剤師として働くためには非常に大変な努力や作業が必要になります。

薬剤師の就職先の中でも、非常に狭き門になるのが自衛官として勤務する薬剤師だと考えましょう。

それでは、どのようにして自衛隊の薬剤師として活躍すればいいのでしょうか。ここでは、薬剤官の仕事内容や収入、階級などを含めて解説していきます。

自衛隊幹部候補生に低い倍率で採用される薬剤師

当然ながら、自衛隊とはいってもいろんな職種の人がいます。その中でも、将来の幹部を目指す人がいます。こうした人については、自衛隊幹部候補生として入隊することになります。

薬剤師の場合、自動的に自衛隊幹部候補生となります。つまり、将来の幹部として働くことを期待されるようになるのです。

自衛隊幹部候補生としては、以下の3つがあります。

  • 一般幹部候補生
  • 歯科幹部候補生
  • 薬剤科幹部候補生

自衛隊には陸・海・空の3つがあり、一般幹部候補生だとそれぞれの部署で募集があります。ただ、一般の人が対象になるので応募が非常に多く、幹部候補生になるにしてもかなりの高学歴であるなど倍率が高いです。

一方で歯学部や薬学部の出身者で自衛官を目指す人は圧倒的少数です。そもそも、自衛隊での募集があることを知らない人が大多数です。そのため県庁や保健所などの公務員試験で採用されるよりも倍率は低く、幹部候補生として活躍するときは一般の人よりも圧倒的に楽をすることができます。

このとき、募集人数は年によって異なりますが自衛隊の公式サイトを見れば以下のように掲載されています。

どれだけの採用があるのかについては事前に確認しておくといいです。ただ、よほどのことがない限りは薬剤官の倍率は非常に低くなっています。

年齢制限があり、教養試験を課せられる

幹部候補生として重宝される存在にも関わらず、なぜ自衛官としての薬剤師はあまり知られておらず、人気がないのでしょうか。一般的に薬剤師で公務員は不人気となりやすいですが、これには年齢制限と教養試験(筆記試験)という2つの問題が存在します。

年齢については、薬剤師が自衛隊に入るには28歳未満(27歳以下)である必要があります。薬剤師になるには6年生の大学を出なければいけません。そのため、最短で薬剤師になるにしても24歳です。自衛官になるには24~27歳の3年間しかチャンスがありません。

しかも、教養試験が存在します。公務員では一般教養試験に合格しなければいけませんが、自衛隊についても同様の試験を課せられるのです。

実際のところ、薬剤師国家試験に合格するだけでも大変です。分厚い参考書を何冊も保有し、1日に何時間も勉強しなければいけません。

これとは別に、公務員試験の勉強をする必要があります。ただ、国家試験に合格するだけでも大変なのに、さらに公務員試験の勉強までしようとする薬剤師は圧倒的少数です。一般教養について勉強し、さらには小論文試験の対策までしなければいけないからです。

また、試験日程は決められています。合格・採用までの流れとしては以下のようになります。

  1. 受付開始:3月1日~5月1日
  2. 筆記試験:5月中ごろ
  3. 小論文・口頭試験:6月中ごろ
  4. 合格発表:7~8月
  5. 入隊:3月下旬~4月上旬

このように、1年をかけて自衛官になるための準備を進めていくようになります。これら自衛官については、卒業見込みの段階から応募することができます。ただ、その場合は国家試験の勉強と並行して公務員試験の対策を進めなければいけませんし、薬剤師試験に不合格だと自衛隊の入隊資格も取り消されます。

薬局でも病院でも、内定をもらっていたとしても国家試験に合格しなければ不採用になります。これは、自衛官についても同様だと考えましょう。

一方で既に薬剤師の人が調剤薬局やドラッグストア、病院で働きながら薬剤官を目指しても問題ありません。ただ、このように公務員試験の勉強を行い、年齢制限があり、さらには自衛官の採用時期が決まっていることを理解しましょう。

体力的な問題も考慮するべき

このとき、体力的な問題についても最初に必ず確認するといいです。大学のときに本気の部活動を経験しているなど、体力に自信のある薬剤師であれば問題ありません。ただ、そうでない場合は正直おすすめできません。

自衛隊である以上、最初は訓練を体験することになります。陸上自衛隊や海上自衛隊、航空自衛隊によって訓練期間は異なりますが、10~12ヵ月ほどの訓練です。

このときの実習教育では、一般的な薬剤師のような「体力を使わない調剤業務」をすることはありません。寮生活をしながら規則正しい生活を送るようになり、体力的にきつい訓練もたくさん行うようになります。そのため、体力に自信がない人はおすすめできないのです。

これは当然であり、自衛隊である以上は海外のインフラが整っていない地域に赴くことがあったり、救護活動を実施したりしなければいけません。体力仕事の少ない一般的な薬剤師とは大きく異なる仕事に就くことになるため、体力がなければ仕事を遂行することができないのです。

私も薬学部を出て、薬剤師として働いていますが、一般的に薬剤師はおとなしい人が多く本気で運動に取り組んでいる人は少ないように思います。ただ、反対にいつも体を動かすなど運動していて体力に自信のある人なら、自衛隊に応募しても問題ないといえます。

ちなみに、薬剤官として入隊する場合は身体検査にパスする必要があります。具体的には以下のようになります。

検査項目男性女性
身長155cm以上150cm以上
胸囲・体重既定の基準値以上
肺活量3,000cc以上2,400cc以上
視力裸眼が両目とも0.6以上(矯正視力は0.8以上)
色覚色盲や色弱ではない
聴力正常
虫歯や欠損歯がない(治療完了したものを除く)
その他慢性疾患(気管支喘息、重度のアトピーなど)がない

これらの基準に当てはまっていないと、どれだけ教養試験を勉強したとしても不合格になってしまいます。そのため、体力面だけでなく身体面でも問題ないか事前に上記の検査項目を確認しておくといいです。

薬剤官の仕事内容のメインは病院薬剤師

このとき、上記のような研修が終わった後はどのような仕事に従事するかというと、基本的には病院薬剤師になると考えましょう。

自衛隊向けの病院が存在しており、このときは自衛隊中央病院以外にいくつもの病院があります。こうした病院で薬剤師として勤務することになります。

また、自衛隊の病院に限らず国立病院で働くこともあります。そうなると一般患者を相手にすることになり、医師や看護師とのチーム医療を勉強し、高度な医療を提供することを考えなければいけません。

国内や海外で薬剤師として活動するとはいっても、当然ながら薬の知識がなければ使い物になりません。そのため、こうした病院勤務を経験することで薬剤師として必要な知識やスキルが身に着くようになるのです。

自衛官とはいっても、薬剤師として高度な医療知識を身につけることが可能になっています。これは、病院薬剤師として勤務するためです。

災害時の救護活動や海外派遣が薬剤官の特徴

ただ、当然ながら単に病院薬剤師をするだけではありません。自衛官ならではの仕事内容が存在します。陸・海・空で内容は異なりますが、以下のような活動に従事します。

  • 地震や噴火など、国内での災害時の派遣
  • 海外での医薬品・食料の補給支援活動
  • 国際間の緊急援助活動

例えば地震などで大きな被害を受けた場合、国内に限らず海外でも自衛隊は活動することになります。このとき、食糧支援をするだけでなく医療の提供もします。そうなると医薬品が必要になるため、薬剤師が活躍することになります。

また、補給支援をするときは水や食料を輸送するだけではありません。前線で活動している人で薬を飲んでいる人はたくさんいるため、そうした医薬品の輸送や在庫管理を含めた支援活動を海外で行うこともあります。

例えば、海外で活動していると隊員が下痢や感染症に罹ることはよくあります。そうしたとき、薬の在庫管理や配給に注意を払うのです。

病院薬剤師としての知識やスキルを保有しているのは当然として、海外派遣を含めた国際協力を担っていくのが薬剤官としての業務でもあります。

医薬品や医療機器の補給活動をしたり、衛生管理の活動を海外でしたりなど、一般的な薬剤師では経験できない仕事をこなすのが自衛隊で働く薬剤師となります。

就職時の階級が良く、給料・年収は高めとなる

なお、採用時に教養試験があるのでなりたい人は非常に少なく、体力的にもきつい自衛官ではありますが、収入の面では意外と優れています。少なくとも、病院薬剤師として勤務するよりも年収は高めになりやすいです。

病院薬剤師だと異常なほど給与相場が低く、年収350万円ほどになることも珍しくありません。月収20~23万円ほどであり、これにボーナスや夜勤が加わってようやく生活できるレベルになるのが病院薬剤師です。

ただ、薬剤官だと幹部候補生として入隊することになりますし、最初から上の階級でスタートすることになります。そうなると、必然的に給与相場も高めになります。具体的には、初任給で24万円以上になります。

以下は自衛隊の求人票に記されている実際の数字となっています。

これに各種手当やボーナスなどが加わると、病院勤務できる薬剤師の中では年収が非常に高くなります。一般的に公務員は収入が低くなりがちですが、自衛官については意外と問題ないと考えるようにしましょう。

また、どれだけ頑張っても給料が上がらない病院薬剤師とは異なり、自衛隊の場合は階級を上げることで問題なく昇給することができます。収入面については、そこまで心配をする必要はありません。

・任期ごとにボーナス収入もある

なお、自衛官は基本的に任期があります。2~3年おきなどに任期があり、任期ごとにお金が支給されるようになります。つまり、通常の給料やボーナスとは別に「任期満了に伴うお金」を受け取ることができるのです。

陸・海・空でそれぞれ支給額は異なりますが、仮に4~5年(任期2回)ほど働くことで通常の年収とは別に合計で200~250万円ほどが支給されると考えましょう。もちろん任期満了後に継続を希望すれば、そのまま薬剤官として活躍し続けることができます。

給与以外の福利厚生が優れるのもメリット

また、自衛官で働く場合は給与以外に福利厚生も優れています。駐屯地内の寮に住む場合、家賃は非常に安くなります。一般的な賃貸マンションよりも費用負担は少なく、官舎の家賃は2万ほどが相場となっています。

敷金・礼金などはなく、家賃や宿舎管理料(賃貸マンションでいう管理費)のみで入居できます。退去時は修繕費用を請求されるデメリットはあるものの、非常に安い費用で入居できるのはメリットです。

また電気代や水道代、ガス代などは基本的に無料となっています。こうした水道光熱費は高額になりやすいため、費用負担がない分だけお金を浮かせることができます。食事代についても、ほぼ無料になります。

生活にお金がほぼかからず、勤務地は田舎にあるので夜中に遊びに出歩くことも少なく、貯金という意味では貯まりやすくなっています。

自衛隊の薬剤官として活躍する

薬剤師の中でも、非常に珍しい職業として自衛官があります。自衛隊の薬剤官として働けば、国内や海外での支援をするなど、普通では経験できない仕事内容が可能です。

メインは病院薬剤師としての仕事になります。ただ災害や紛争があったときに派遣され、医療者の立場から支援する自衛官となります。

もちろん、自衛隊なので人によって向き不向きがあります。少なくとも、運動が苦手な人はついていけません。また、海外などへの派遣時はホテルのような場所に泊まるわけではないため、不便な環境でも耐えられるという条件があります。

年齢制限があり、公務員試験も課せられるので不人気ではありますが、就職後の年収や福利厚生が優れているというメリットがあるのも自衛官薬剤師の特徴です。

どのような薬剤師を目指したいのかを考え、メリットやデメリットを踏まえたうえで自衛隊の幹部候補として薬剤官を目指すようにしましょう。


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