高時給を実現できる薬剤師として、派遣社員が知られています。派遣薬剤師をすれば、正社員で働くよりも高い給料になることは有名です。東京や大阪などの都市部であっても、月50万円以上の収入になるのは普通です。
ただ、これだけ薬剤師が派遣で高時給を実現できるということは、薬局や病院側はそれ以上のお金を支払っていることになります。薬剤師への時給に加えて、派遣会社(転職サイト)への謝礼も支払わなければいけないからです。
それでは、こうした薬剤師の派遣を運営している転職エージェントは手数料としてどれくらいの額を抜いているのでしょうか。
派遣会社のマージン率(取り分)を知り、どのような料金体系で運営されているのかを知れば、薬局や病院での運営実態がより深く見えるようになります。ここでは、派遣会社のマージン率から派遣薬剤師の働き方や時給交渉のやり方まで含めて考えていきます。
もくじ
薬剤師の派遣会社のマージン率は35%以上
まず、薬局や病院が派遣会社を利用して薬剤師派遣を依頼するとき、料金はどのようになるのでしょうか。このときの手数料率としては、35%以上になると考えてください。場合によっては、マージン率が40%を超えるケースも普通です。
一般的には、派遣社員のマージン率は30%ほどとなっています。ただ、薬剤師だと派遣会社側が35%や40%などの取り分になることは珍しくないのです。
派遣会社の取り分については、労働者派遣法によってマージン率の公表を義務付けられています。そのため、どれだけの手数料になっているのかについてはそれぞれの派遣会社で公になっています。例えば、以下は薬剤師専門の派遣会社が公表している実際のデータになります。
このように、マージン率は35.5%となっています。事業所ごとの公表にはなりますが、だいたいこのような手数料率になると考えましょう。
東京にある事務所ですが、この会社では派遣労働者(薬剤師)が1日8時間働いたとき、一人平均25,920円の賃金を渡していると記載しています。時給換算すると3,240円となります。つまり、東京で派遣薬剤師をするとき、時給3,200円以上となっていることが分かります。
ただ、実際に薬局や病院からもらう金額は多く、1日8時間あたり40,192円を受け取っていると記載されています。時給では5,024円です。
つまり時給3,200円で薬剤師を雇うことを考えたとき、薬局などは時給5,000円以上を出さないといけないことが、こうした実データから読み取れます。
地方だと薬局の手数料はさらに高額になる
なお、東京や大阪などの都市部であっても時給3,000円以上の案件はたくさん存在します。また、どれだけ時給が低かったとしても時給2,800円以上になるのは当然だといえます。
しかし、これが地方にある田舎の薬局だとさらに高時給になります。薬剤師が足りていない地域だと、時給4,000円以上の求人がたくさん出されるようになります。
例えば、以下は愛知にある調剤併設ドラッグストアから出た求人募集です。
時給4,000円の場合、マージン率35%だとすると薬局側が支払うべき時給は合計で約6,150円となります。しかも住居付であり、転居費用についても面倒を見てくれる求人となっています。
薬局が派遣薬剤師を雇うとき、いずれにしてもこれだけ高額なお金が動いていることを理解しておくといいです。
薬局が高額派遣を募集しても儲かる理由
ただ、薬剤師だと「なぜこれだけ高額な時給を支払ったとしても問題ないのか」と疑問に思う人が多いです。
薬剤師は医療の専門家で薬については詳しいものの、給料を含めお金についてあまり知らない人が多いです。ただ、薬局や病院がどのような儲けの構造で成り立っているのかを理解すると、より薬剤師業務について把握できるようになります。
まず、処方せんの一枚当たりの単価は9,000円以上です(参考:厚生労働省・調剤医療費の動向)。ここで、一人の薬剤師が1日30枚の処方せんをさばくとします。その場合、薬局の売上は月に以下のようになります。
- 1日30枚 × 9,000円 × 月20日 = 540万円
一方で一人の薬剤師に対して、派遣会社(転職サイト)への手数料込で時給5,000円を支払うとします。そうなると、月の支払い(経費額)は以下のようになります。
- 時給5,000円 × 1日8時間 × 月20日 = 80万円
月に80万円の料金を支払う必要はあるものの、薬局としては月540万円もの売上があります。そのため、高い手数料を転職エージェントへ支払ったとしても儲かるのです。
当然、薬剤師へ時給4,000円(転職サイトへのマージンを含めると時給は約6,150円)であってもかなり儲かります。仮に時給総額が6,150円であっても、月の支払いは100万円ほどです。
- 時給6,150円 × 1日8時間 × 月20日 = 98万4,000円
調剤薬局やドラッグストア(調剤併設ドラッグストア)というのは、それだけ稼げるようになっているのです。当然、病院についても同様だと考えましょう。
低すぎる時給の派遣に申し込まないのは大原則
こうした薬局経営の実情や仲介料の相場を考えたとき、時給2,500円など異常に低い場合は論外です。そうした薬剤師の派遣会社とは縁を切った方がいいです。
派遣会社によっては「薬剤師の派遣相場は下がっている」とウソを言うことがあるため、そうした言動に騙されないようにしなければいけません。どれだけ時給が低くても、派遣であれば時給2,800円以上が適切です。
例えば、以下は私が大手転職サイトの薬キャリAGENTへ登録し、メールで送られてきた求人票になります。
ここにある通り、東京であってもどれも時給2,800円以上です。こうした求人を選ぶのは大原則だと考えましょう。
取り分から考える派遣薬剤師の時給交渉術
それでは、時給2,800円以上の求人であるのは当然として、さらに給料を上げてもらうにはどうすればいいのでしょうか。派遣勤務するとき、こちらから何もアクションを起こさなければ時給は上がりません。そのため、転職サイトの担当者と交渉するようにしましょう。
このとき、薬局や病院側からもらう金額は既に決められており、その中から派遣会社の手数料(マージン)である35~40%(薬剤師の取り分は60~65%)が引かれることになります。そのため、派遣求人で掲載されている時給については、「薬剤師の取り分が60~65%になる」ように計算されています。
実際、求人を確認すると以下のように幅をもたせていることがほとんどです。
大阪にある調剤薬局からの派遣求人ですが、この募集では時給3,000~3,500円となっています。このように幅があるのは、マージン率から考えて最大時給3,500円まで可能だからです。
何も言わなければ、当然ながらこの求人だと時給3,000円となります。そのため、事前に「時給〇〇円で働くにはどのような条件になるのか」などのように、担当者へ確認するといいです。
または、薬局や病院によって転職サイト側へ支払うことのできるお金が決まっていることから、多めの金額を提示してくれる薬局・病院に限定して紹介してもらっても問題ありません。例えば、「時給3,200円以上の求人だけ教えてほしい」などのように聞くのです。そうすると、それに合う派遣求人が提示されるようになります。
複数の転職サイトを利用するのは基本
このとき、薬剤師が派遣求人を選択する大原則として、2社以上の転職エージェントは必ず利用するようにしましょう。
一般的なマージン率は35~40%だとしても、実際のところ転職エージェントごとの薬剤師の取り分は異なります。そのため、たとえ同じ求人だったとしても薬剤師に提示される時給が違うのは普通です。
また、1社だけの転職サイトを利用している場合、提示された求人の時給相場や勤務条件が適切なのか比較できません。
そのため複数の転職サイトへ登録し、それぞれに派遣求人を提示させて確認する作業は必ず行うようにしましょう。
- 時給3,000円以上の求人をピックアップしてほしい
- 病院求人を探してほしい
- 出稼ぎ用の高額求人へ応募したい
- 1年の長期契約をしたい
- 週3日だけ派遣で働きたい
これらの要望を出しながら、高い時給を実現しつつも希望条件を叶えてくれる求人へ応募するのです。同じ条件を提示し、それぞれの転職サイトで求人を出させたうえで比較するのは転職成功の初歩なので必ず実施しましょう。
正社員やパート・アルバイトの時給交渉でも派遣の手数料相場は重要
なお、派遣としての勤務をする場合でなかったとしても、「薬局や病院が派遣薬剤師を雇うときの料金相場」を理解することは重要です。これをもとに年収交渉や時給交渉をすることができるからです。
いまは派遣勤務を考えていたとしても、将来は正社員やパート・アルバイトとして働くようになる薬剤師がほとんどです。そうしたとき、交渉の方法を理解しておくと良い条件で転職できるようになります。
既に述べた通り、薬局や病院が派遣薬剤師を雇う際には高額な費用が必要になります。それでも薬局は儲かるものの、やはり派遣会社に支払う料金は大きいです。
そこで例えば正社員やパート・アルバイトとして勤務する場合、「多少の残業があっても問題ない」「土曜日でも働くことができる」などの薬剤師であると、容易に年収アップ(時給アップ)を実現することができます。
あなたが残業ありで働いたり、土曜日勤務をしたりする場合、薬局や病院側はその分だけ派遣薬剤師を雇う必要がなくなります。つまり、それだけ経費削減になります。実際、派遣求人の中には夕方以降だけの募集も存在します。例えば、以下のような求人です。
16:00~19:00の派遣求人ですが、これは時短勤務などによって夕方以降の薬剤師が足りていないからです。
こうしたとき、多少の残業があっても終業時間まで働いてくれたり、土曜日であっても勤務してくれたりする場合、貴重な薬剤師となります。あなたが働くことで、薬局としては新たに派遣薬剤師を雇う必要がなくなり、経費削減できます。
そこで、削減できた経費分をあなたの給料に回してもらうように交渉するのです。特に転職時であれば、転職サイトの担当者が優秀だと、ここまで計算して年収や時給の交渉をしてくれるようになります。このように、派遣での手数料の構造を理解すればどのように交渉すればいいのか理解できるようになります。
薬剤師が派遣をする取り分を理解し、有利に転職する
一般的な派遣会社だと、転職サイト側の手数料は30%ほどです。一方で薬剤師になると、マージン率は35~40%ほどになります。さらに薬剤師は高時給であるため、転職エージェントとしては薬剤師の派遣でかなり儲かるようになります。
このとき、例えば時給3,200円で働くとなると薬局や病院は総額で時給5,000円以上を支払うのが基本です。こうした高額な料金がかかっていることは理解するといいです。
しかし、それでも儲かるのが薬局や病院です。そのため、高い時給をもらうことについて罪悪感を覚える必要はまったくありません。
なお、実際に派遣薬剤師をするときは優れた条件で就職するようにしましょう。そのために転職サイトの担当者と交渉するのは必要ですし、複数の転職エージェントへ登録する作業もしなければいけません。このとき、薬剤師の派遣会社としては以下の2つを利用するといいです。
・薬キャリAGENT
求人数という意味では、最高クラスの数を保有しており、さらには高額求人が多い転職サイトとして薬キャリAGENTが知られています。エムスリーキャリア株式会社が運営しており、薬剤師の転職サイトの大手です。
単純に高額求人が多いことから、薬キャリAGENTではそれだけ薬剤師に対して給料を還元してくれています。また多くの求人から選べるため、最初に登録することを考えましょう。
・お仕事ラボ
派遣を取り扱う大手の転職サイトには、他にもお仕事ラボが有名です。お仕事ラボは「派遣に強い」という特徴があるため、派遣を目指す人の大多数がお仕事ラボを利用します。
求人数は薬キャリAGENTに劣るものの、派遣に強みがあることからお仕事ラボでは「派遣で働くときの求人先への条件交渉」がスムーズであり、高めの時給を提示してくれることも多いです。そのため、同時に利用することで高額派遣の求人を見つけるようにしましょう。
薬剤師が転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。自分一人では、頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できるだけでなく、病院や薬局、その他企業との交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「電話だけの対応を行う ⇔ 必ず薬剤師と面談を行い、面接同行も行う」「大手企業に強みがある ⇔ 地方の中小薬局とのつながりが強い」「スピード重視で多くの求人を紹介できる ⇔ 薬剤師へのヒアリングを重視して、最適な条件を個別に案内する」などの違いがあります。
これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページで転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。
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インタビュー記事:薬剤師の転職サイト
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