薬剤師の中でも、自由な働き方が可能な働き方として派遣があります。時給も非常に優れており、多くの薬剤師が派遣薬剤師として働くことを選択しています。
ただ、派遣業では正社員やパートとは違う働き方となるため、特殊なルールがあります。何でもいいから派遣として勤務できるわけではありません。派遣はあらゆる勤務方法を実現できるものの、法律で禁止されている働き方もあります。
派遣としての勤務を望むのであれば、事前の派遣業に関する法律の内容を知ったうえで働かなければいけません。禁止されている違法な勤務はできないため、薬剤師免許を活かすにしても「派遣として可能な働き方」を事前に理解するようにしましょう。
ここでは、薬剤師が派遣社員として勤務するときに重要となる法律や勤務方法について解説していきます。
もくじ
派遣薬剤師が知るべき労働者派遣法について
派遣での働き方を定めている法律の一つに労働者派遣法があります。2008年にリーマンショックと呼ばれる事件が起こり、世界的な大不況に陥ったことがあります。このとき、会社は正社員を切ることができないため、すぐに契約解除できる派遣社員を切るようにしました。
その結果、多くの派遣社員が職を失うことになりました。このときに生まれた言葉が派遣切りです。
こうしたことを受けて、労働者派遣法が段階的に見直されるようになって現在のような形になりました。労働者派遣法が改正された結果、好きなように派遣勤務できる状態からある程度の限定が加わるようになったのです。
そのため、薬剤師が派遣をするときに許可されている働き方があれば、禁止される違法な勤務方法もあります。ただ、禁止されている働き方の中でも「原則禁止」となっており、例外規定が設けられていることもあります。
そうした中でも、薬剤師免許を活かして働くことが可能な職場としては以下のようなものがあります。
- 調剤薬局
- ドラッグストア(調剤併設ドラッグストアを含む)
- 製薬会社
そのため、こうした職場では派遣薬剤師の求人募集がたくさん出されています。派遣は即戦力を求められるので一般的に製薬会社などの企業求人はほぼ存在しませんが、調剤薬局やドラッグストアから派遣募集が出るのは普通です。
例えば、以下は東京にある調剤薬局から出された派遣求人です。
時給3,000円ですが、こうした求人は珍しくありません。一般的な薬局で働くにしても、派遣薬剤師として高時給を実現することができます。
1年以内に正社員で勤務していた会社は派遣不可
しかし、調剤薬局やドラッグストアであっても働くことが禁止されるケースがあります。労働者派遣法では、1年が過ぎる前まで勤務していた会社については派遣社員として勤務できないようになっています。これは正社員に限らず、パート・アルバイトでも同様に適用されます。
このときは法人単位であるため、同じ会社の別店舗であっても、1年以内にその会社の正社員やパートをしていた場合は派遣として働くことはできません。
これは、「正社員を辞めさせて派遣社員として登用し、安い賃金で働かせる」などを防止するためです。以前は正社員から派遣への格下げにより、大幅なコストカットが可能だったのです。これが問題視されていた時期があり、いまでは禁止されて違法になっています。
薬剤師の場合、正社員よりも派遣の方が圧倒的に時給は高く、さらには薬剤師が慢性的に不足しています。そのため、薬局としてはむしろ派遣ではなく正社員として薬剤師を雇用したいと考えています。
ただ、世間一般的にはそうではありません。正社員ではなく派遣として、うまい具合に働かせたいと考えている会社が多いです。そのため、このような規定になっています。
なお、1年以内の勤務というのは正社員やパート・アルバイトだけに適用されます。派遣では関係ありません。そのため、「半年前に派遣として勤務していたA薬局に対して、再び派遣として応募して働く」などであれば可能です。
同じ部署での勤務上限は3年
また労働者派遣法では、同じ部署で勤務できる上限が3年までと決まっています。いくつかの例外は存在しますが、3年以上は連続して同じ職場で派遣勤務することはできないと考えましょう。
同じ部署で3年を超えて勤務するには正社員またはパート・アルバイトになるしかなく、強制的に別の職場で働く必要があるのです。
ただ、薬剤師の場合は3年の勤務上限を考える必要はありません。
3年というのは、同じ部署でずっと働くことを指します。このとき、「課」「グループ」の部署単位で考えます。別の部署異動があって働くことになる場合、3年のカウントはゼロになります。特に部署が場所的に離れている場合、別の職場として考えることができます。
つまり別店舗で派遣をすることになれば、同じ会社であってもずっと派遣社員として勤務できるようになります。
また、そもそも薬剤師の派遣で同じ会社に3年以上も勤務することはよほどのことがない限りありません。
薬剤師での派遣では、一般的に数ヵ月などの単位でいろんな職場を経験することになります。長期派遣として半年や1年などで働くことはできますが、3年も同じ会社で派遣勤務することはほぼ存在しないと考えましょう。
一般人と薬剤師では事情が大きく異なるため、派遣業に関わる法律の中でも「3年の上限」については無視して問題ありません。
薬剤師の派遣が禁止される医療機関・職場が存在する
なお、他にも労働者派遣法によって薬剤師の派遣が禁止されている職場がいくつかあります。その中の一つに「医療関連」があり、派遣禁止業務に該当します。命を預かる職業であるため、医療関連の会社が派遣禁止業務になっている理由です。
しかし、医療関連に調剤薬局やドラッグストアは含まれていません。そのため、薬局であれば問題なく薬剤師の派遣をすることができます。一方で以下の職場では、法律によって法律によって薬剤師の派遣が禁止されています。
- 病院・クリニック
病院やクリニックは労働者派遣法の「医療関連」に該当するため、薬剤師の派遣が禁止されています。そのため、病院で人手不足に陥っているために薬剤師を欲していたとしても派遣は募集できず、正社員(常勤)またはパート・アルバイトの求人が原則になります。
しかし、実際のところ病院であっても普通に薬剤師の派遣求人が掲載されています。こうした病院・クリニックや派遣会社(転職サイト)は違法行為をしているのでしょうか。
もちろんそうではなく、病院が派遣業として薬剤師を受け入れるときは例外規定が存在します。この例外規定の範囲であれば、派遣禁止業務に規定されている病院であっても問題なく派遣社員の薬剤師を雇い入れることができます。
- 産休・育休や介護休業労働者の代替
- 紹介予定派遣
それぞれの例外規定についてより深く確認していきます。
産休・育休や介護休業労働者の代替は派遣可能
特別な事情によって一時的に職場を離れなければいけない労働者は存在します。最も一般的なのは、妊娠・出産による産休や育休です。女性であれば、出産のために一定期間だけ仕事を休むのは普通です。
ただ、産休・育休は1年ちょっとの一時期的な休みであり、育休が終われば職場復帰します。しかし、1年ほどの人員の穴埋めをするだけに正社員やパート・アルバイトを新たに雇うわけにはいきません。正社員はこちらから解雇できないからです。
そのため、産休・育休のために一時的に人が抜けるとき、その穴埋めとして病院やクリニックが派遣社員を依頼するのは認められています。病院から派遣社員の募集が出るのは、ほとんどが産休・育休の代替だと考えて問題ありません。
例えば、以下は名古屋(愛知)の病院から出された産休代替での派遣求人です。
病院は好きなように派遣求人を出せるわけではないため、病院の派遣求人はどうしても稀になってしまいます。ただ、病院であっても派遣薬剤師として勤務できると考えましょう。
例えば、以下は私が東京の大学病院で派遣勤務をしたとき、転職エージェントから送られてきた「派遣勤務決定」のメールです。
時給3,000円であり、かなりの高額収入となりました。なお、このときも同様に産休代替での派遣勤務でした。
紹介予定派遣の病院派遣も違法ではない
また、他にも違法ではない派遣の勤務方法があります。それは、紹介予定派遣です。紹介予定派遣とは、正社員(またはパート・アルバイト)になることを前提に派遣勤務することを指します。
正社員が前提とはいっても、双方の合意がなければいけません。断ることも大丈夫なのです。要は、お試し勤務できるのが紹介予定派遣になります。紹介予定派遣の場合、正式に働くことが前提なので病院やクリニックであっても派遣可能となっています。
紹介予定派遣の場合、勤務は6ヵ月以内になっています。多くは3ヵ月ほどの勤務後に入社するかどうかを決めますが、こうした求人募集を用いれば転職で失敗することがなくなります。
例えば、以下は横浜(神奈川)の病院から出された紹介予定派遣の中途採用募集です。
紹介予定派遣であっても、病院の求人数自体は少ないです。ただ、こうした働き方であっても問題ないことは理解しましょう。
30日以内の短期派遣は禁止されている
また、派遣では単発スポットを含め30日以内の短期派遣が禁止されています。これも、かつて問題になった派遣切りによって労働者派遣法が改正されたためによるものです。
ただし、こうしたスポットバイトについても実際には多くの求人が出されています。例えば、以下は東京の薬局から出されたスポット派遣です。
東京や大阪を含め、大都市でこれら短期バイトの求人が出されます。当然、スポット派遣なのでこのようにあり得ないほどの高時給となります。
こうした派遣が違法なのかというと、当然ながらそうではありません。病院への派遣と同じように、例外規定が設けられています。以下に該当する人については、30日以内の派遣をしても問題ありません。
- 60歳以上の方
- 学生
- 自分の年収が500万円以上(副業で行う)
- 世帯年収が500万円以上であり、主な生計者ではない
60歳以上の人や学生については文字通りです。また、年収500万円以上の人が本業とは別にダブルワークで副業を考えている場合、単発バイトをすることができます。
他には、「夫婦合わせての世帯年収が500万円以上あり、夫婦のうち薬剤師であるあなたの年収のほうが低い(主な生計者ではない)」というケースであれば単発派遣が可能です。例えば、以下のようなケースです。
- 旦那の年収:400万円
- 妻(薬剤師)の年収:200万円
この場合、薬剤師である妻のほうが年収は低く、主な生計者ではないと考えることができます。また、世帯年収は600万円なので、500万円以上となって薬剤師の妻は単発バイトが可能です。
派遣労働者の保護を目的として改正されましたが、薬剤師にとってはどこでも働けるので非常に迷惑な内容になっています。ただ、薬剤師免許をもたない一般人に基準を合わせなければいけないため、薬剤師についても30日以内の短期派遣をする場合はこのような規定が存在するのです。
管理薬剤師は当然、派遣ができない
なお、いま管理薬剤師として調剤薬局やドラッグストアで勤務している場合、当然ながら派遣社員として他の店舗で勤務することはできません。
管理薬剤師では、別店舗で働くことを法律で禁止されています。稀に管理薬剤師を別店舗でもヘルプ勤務させているブラック薬局は存在します。そうした会社ぐるみの法令違反は例外にしても、いかなる場合でも管理薬剤師は別店舗で勤務できないと考えましょう。
これについては、派遣会社(転職サイト)の公式サイトにも明記されています。例えば、以下は実際の薬剤師専門の転職エージェントに掲載されている公式サイトの一部になります。
このように、管理薬剤師は派遣社員として就業できないと明記されています。これは、管理薬剤師が別店舗で働いた瞬間に違法行為になるからです。
派遣会社(転職サイト)が違法就労の斡旋をするわけにはいきません。そのため、管理薬剤師として働いている人は全員が派遣勤務できないと考えるようにしましょう。
法律を理解して、薬剤師免許を活かして派遣勤務する
正社員やパート・アルバイトであれば、雇用主(薬局や病院など)に雇われるため、好きなように勤務できます。しかし派遣の場合はそうではなく、労働者派遣法によって働き方に制限があると考えるようにしましょう。
調剤薬局やドラッグストアであれば、どのような人であっても派遣で働くことができます。ただ、1年以内に勤務していた人は同じ会社での派遣勤務が無理です。また、働くにしても同じ店舗だと3年が上限になります。
他には、病院では派遣が禁止されています。しかし産休代替や紹介予定派遣であれば、問題なく勤務できるようになっています。
なお、中には短期派遣を希望する人もいます。30日以内の短期派遣は原則として禁止されているため、例外規定に該当する人しか単発バイトをすることができません。
面倒ではありますが、薬剤師の派遣業では法律での決まりがあります。派遣薬剤師は高い収入を得ることができて非常に魅力的ですが、このような法律上の規定があることを理解したうえで求人を探し、転職するようにしましょう。
ただ、実際に派遣勤務するときは活用するべき転職サイトが少なくなります。派遣の取り扱いがある転職エージェントは限られるためです。その中でも、大手では以下の2つの転職サイトで派遣求人が存在します。
・薬キャリAGENT
求人数という意味では、最高クラスの数の求人募集を保有している転職サイトが薬キャリAGENTです。求人数の多さから、派遣を希望する人が最初に登録するべき転職サイトになります。
さらには、薬キャリAGENTでは高額求人が多いという特徴もあり、法律を守りながら高額求人で派遣薬剤師をすることができます。当然、単発スポットから長期派遣まで求人の種類はさまざまです。
・お仕事ラボ
同じく大手の転職サイトとしてお仕事ラボがあり、特に派遣に対して強みがあるという特徴をもつ転職エージェントです。
派遣会社として法律を守っているのは当然として、病院での短期派遣からスポットバイトまで多くの案件を保有しています。派遣では条件の優れた求人をどれだけ保有できるのかが重要であるため、同時にお仕事ラボを活用することで良い条件で派遣勤務できるようになります。
薬剤師が転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。自分一人では、頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できるだけでなく、病院や薬局、その他企業との交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「電話だけの対応を行う ⇔ 必ず薬剤師と面談を行い、面接同行も行う」「大手企業に強みがある ⇔ 地方の中小薬局とのつながりが強い」「スピード重視で多くの求人を紹介できる ⇔ 薬剤師へのヒアリングを重視して、最適な条件を個別に案内する」などの違いがあります。
これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページで転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。
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インタビュー記事:薬剤師の転職サイト
・ファーマキャリア
薬剤師求人の中でも、「どこにも載っていない難しい案件」を探すことに特化した、オーダーメイド求人の発掘を行っているファーマキャリアさまへ取材しました。