薬剤師が働くことを考えるとき、一般的には正社員やパート・アルバイトが基本です。ただ、派遣薬剤師という働き方も広く行われています。
特に妊娠希望の人や、実際に妊娠中の人を含めて、正社員として働くよりも派遣薬剤師の方が都合がいいです。正社員やパートだと退職によって産休・育休の取得ができなかったり、育児を行いやすい職場で勤務できなかったりと弊害が多いです。
一方で派遣薬剤師であれば、これらの問題をすべてクリアできます。たとえ妊娠中であっても問題なく勤務でき、産休や育休の制度をフルで利用し、産後にゆるい働き方を実現できる職場で慣らすことが可能になるのです。
そのため、できるだけ早めに派遣登録をして、派遣薬剤師として活躍することを考える女性はたくさんいます。そこで、どのように考えて派遣薬剤師をすればいいのかについて解説していきます。
もくじ
産休・育休を考えると、正社員やパートでは給付金が少なくなる
女性が妊娠し出産をするときは、まず医療機関を受診するようになります。母子手帳を受け取り、お腹の中にいる赤ちゃんが育ってくれているかどうか確認するのです。
そして、基本的には出産の前まで働くことになります。出産予定日の6週間前(双子や三つ子など、多胎妊娠の場合は14週間前)から産休を取得できるため、それまでは薬剤師として勤務するのが一般的です。
正社員やパート(年収130万円以上)で働いているのであれば、社会保険に加入していることになります。この場合、出産に伴って以下の3つの給付を受け取れる権利があります。
- 出産育児一時金
- 出産手当金
- 育児休業給付金
出産育児一時金では、42万円が一律で支給されます。例えば、以下は私の家に新たな家族ができたときに申請した、出産育児一時金の通知書類です。
また、出産手当金では「給料(社会保険の標準報酬日額) × 2/3 × 産休の日数」が支給されます。たとえ妊娠を機に職場を退職するにしても、出産手当金は全額受け取れるようになります。
・育児休業給付金については問題が残る
そして、出産後の育休中については育児休業給付金が支給されます。それまでもらっていた月給の67%や50%が支給されるようになるのです。ただ、出産後の育児休業給付金については、「職場に復帰後も働き続ける人」が給付の対象になります。全員が受け取りの対象ではありません。
育児休業給付金を受け取り、育休明けすぐに退職してもいいですが、職場からは猛反発を食らいます。少なくとも、円満退社とはいえません。
同じ職場へ復帰することだけを考えている人なら問題ありません。ただ、実際には以下のような理由で転職を検討する人が非常に多いです。
- 残業が非常に多い職場なので、いまのままで働くのは無理
- 時短勤務を子供が3歳になるまでしか認めてくれず、育児支援に積極的ではない
そのため現職場に留まることができず、育児休業給付金を受け取ることのできないママ薬剤師が非常に多くなります。そこで、派遣薬剤師をします。
派遣なら好きに職場を変更し、育児休業給付金まで受け取れる
正社員やパートとは違い、派遣薬剤師であれば契約ごとに好きに職場を変更することができるため、特に退職などを考える必要はなく好きなように働くことができます。
例えば勤務時間を減らしたいなら、午前中だけ働ける職場で勤務すれば問題ありません。以下は京都で出された午前のみの派遣求人ですが、こうした募集はたくさん存在します。
また、週1回だけ勤務したいのであれば、そうした職場に変えれば問題なく働けるようになります。そのときの状況に応じて、好きなように勤務できるのが派遣薬剤師になります。あなたのライフステージや子育ての状況に応じて勤務条件を変化させることが可能なのです。
派遣薬剤師は1ヵ月などの短期があれば、半年ほどの長期契約もあります。この中で自由に勤務形態を選ぶことができるのです。
職場を変えても、派遣では退職がない
このとき、派遣薬剤師は派遣会社に雇われることになります。例えば2つの派遣会社に登録した場合、形式上は2つの会社で働いていることになります。
正社員やパートの場合、前述の通り出産育児一時金や出産手当金はもらえるものの、転職・退職を検討している場合は育児休業給付金は受け取れません。育休の間、収入が途絶えることになります。
一方で派遣薬剤師であれば、そのつど働く職場は変えるものの「雇われ先は派遣会社」と固定です(2つの派遣会社を使っている場合、2つ同時に固定で雇用される)。育休明けに「育児に適した職場」を自由に選ぶことができるものの、退職はせず同じ派遣先の会社へ職場復帰することになるため、問題なく育児休業給付金を受け取ることができます。
しかも、「やっぱり育休を半年伸ばしたい」などのように考えても問題なく、落ち着いた段階で派遣求人へ申し込んでも大丈夫です。復帰できる段階になって好きなように派遣薬剤師を再開できます。
育休を取得している正社員やパート薬剤師であれば、勤務先の職場から「いつごろ復帰できますか?」と急かされます。ただ、派遣だとそうしたことがありません。自分の好きなタイミングで復帰できるのです。
正社員よりも高い給料を実現可能な派遣
なお、あなたの状況に合わせて派遣契約のたびに好きなように勤務条件や勤務場所を変更することができ、産休や育休明けの復帰で特に悩む必要がなく、育児休業給付金についても満額受け取れるというメリットの大きい派遣ですが、さらなるメリットがあります。それは、時給が高いということです。
一般的な派遣薬剤師であると、東京や大阪、名古屋、福岡、横浜などの都市部であっても時給3,000円以上となります。
例えば、以下は東京にある薬局から出された派遣求人になります。
このように、募集は時給3,000円となっています。9:00~18:00で休憩1時間とすると、1日8時間勤務です。仮にこの求人で週5日働くとすると、月の収入は以下のようになります。
- 時給3,000円 × 1日8時間 × 月20日勤務 = 48万円
正社員の給料を軽く超えるようになりますし、少し残業が発生するだけで月50万円以上になります。東京や大阪などの都市部であっても、派遣だと月50万円以上(年収600万円以上)が可能になってしまうのです。
もちろん出産した後だったり、既に子供がいたりする場合はフルタイムで働くことは難しいかもしれません。ただ、それでも復帰後に高い時給で効率よく稼げるのは変わりません。派遣薬剤師というのは、収入面でのメリットも大きいのです。
妊娠報告は派遣会社(転職サイト)へ行う
なお、派遣薬剤師をしていて活躍しているとき、実際に妊娠したときはどのように行動すればいいのでしょうか。これについては、妊娠報告をするようにしましょう。
どこに妊娠報告するのかというと、派遣求人を紹介してくれている派遣会社(転職サイト)に報告します。派遣会社にとって、働いている途中に妊婦になったことを報告されることは慣れています。そのため、どのように対処すればいいのか聞くようにするといいです。
たいていの場合、祝福されて終わるだけになります。特に心配する必要はありません。派遣先との雇用契約の段取りを含め、すべて派遣会社が代行してくれます。
また、いま働いている勤務先についても妊娠報告する必要があります。派遣先の社長や人事などに報告する必要はまったくありませんが、職場の管理薬剤師や同僚については当然ながら自ら報告するようにしましょう。
このときについても、特に緊張する必要はありません。普通に祝福されるだけとなります。
ただ、このときは妊婦となるために体が思うように動かないことがよくあります。
- つわりがひどく、ずっと立ち仕事ができない
- 素早くは動けない
- めまいを感じることがある
こうしたことがあるため、薬局内にイスを置いてもらうなど配慮してもらうようにしましょう。基本的に産休に入るまで、薬局は契約を続けてくれます。無断欠勤が続かない限り、契約が打ち切られることはないので安心して問題ありません。
ただ、働くときの環境については考慮してもらうようにしましょう。
妊娠中や妊娠後から派遣求人へ申し込むのは可能か
また、妊娠が発覚するとはいっても派遣では契約期間が決まっています。例えば3ヵ月の契約だとすると、実際の出産はまだまだ先になるので契約更新してもらわなければいけません。
そうしたとき、妊娠中であっても契約更新できたり、他の派遣求人を紹介してもらったりできるのでしょうか。
ほかにも、「いまは正社員やパートとして働いているが、妊娠が発覚した後に派遣として転職したい」「既に会社を退職しているが、出産費用が重くのしかかるので妊娠中だが派遣をして稼ぎたい」と考える人もいます。これについては、可能なのでしょうか。
実際のところ、出産育児一時金が出るとはいっても妊娠・出産の費用は全額自費であり、大幅な赤字になります。
参考までに、私の元に最初の家族ができたとき、子供の出産費用は以下のようにほぼ100万円(正確には99万5,892円)でした。
出産育児一時金として42万円が支給されるにしても、残り58万円の大赤字です。このときは帝王切開を含め、いろんなお金が加わっていったので高額になってしまいました。いずれにしても、こうした費用を稼がなければいけません。
妊娠中での求人紹介については、派遣求人を取り扱う転職エージェントを活用すれば問題なく求人を紹介してもらえます。もちろん、あらゆる求人が受け入れてくれるわけではなく、限られるようになります。妊婦が働くことになるため、どうしても気を使うようになるからです。
しかし、調剤薬局やドラッグストアの派遣求人は非常にたくさんありますし、少しでも薬剤師の手を借りたい薬局は妊婦であっても問題なく期間限定の採用を出してくれます。産休に入るまで働けるように求人を紹介してもらい、出産育児一時金だけでなく出産手当金や育児休業給付金までもらえるように手配してもらうといいです。
また、すでに派遣として働いていて妊娠した場合であっても、契約更新できたり、他の派遣求人を紹介してもらったりできます。
もちろん、働くとはいっても妊婦なのでフルタイムである必要はありません。体に負担にならないように勤務し、社会保険の制度を活用するのが賢い派遣薬剤師の働き方になります。
妊娠発覚後に転職した後も育児休業給付金を受け取れるのか
なお、既に派遣として働いている薬剤師であれば問題ありませんが、妊娠発覚後に派遣薬剤師へ転職しても育児休業給付金を受け取ることはできるのでしょうか。
育休(育児休業)の取得については、「同一の会社(薬局や病院など)で1年以上働いている」という条件があります。これについては会社によって判断が分かれ、転職直後での妊娠発覚でも育休を認めてくれる会社は存在します。
もちろん、派遣なので自ら求人に申し込まなければ、結果的にいくらでも休業期間を設けることができます。つまり、育休を何年でも取りたい放題になります。
一方で育児休業給付金については、以下の基準で判断されます。
- 育児休業前の2年間で「11日以上勤務した月」が12ヶ月以上あるか
つまり、派遣会社で1年以上働いていなかったとしても、それまで社会保険に加入しており、2年間のうち12ヵ月以上は普通に働いているのであれば、妊娠発覚後に転職したとしても問題なく育児休業給付金をもらえるのです。
正社員やパートで勤務しており、出産を機に辞める場合は育児休業給付金をもらえません。ただ、出産発覚後でも問題ないのですぐに会社を辞め、派遣で働き始めれば問題なく育児休業給付金をもらえます。もちろん、育休明けの復帰はいつでも問題ないですし、好きな勤務形態の求人へ応募できるというメリットがあります。
妊婦は小児科・精神科での粉薬、散剤、粉砕調剤を避ける
ただ、これからママ薬剤師になる妊婦が注意するべき職場があります。それが、小児科と精神科です。これらの職場については基本的に避けるようにしましょう。
小児科であると、必然的に粉薬・散剤が多くなります。そうなると、粉薬の調剤をするときに薬の有効成分が空気中に舞い、吸ってしまう恐れがあります。いくらマスクをしていたとしても、影響をゼロにすることはできません。
同じことは、精神科にもいえます。小児科ほど粉薬・散剤の調剤が多いわけではありません。ただ、場合によっては向精神薬や抗精神病薬の錠剤を粉砕し、調剤することがあります。そうしたとき、粉が舞って吸ってしまうことがあります。
当然、粉砕の量は微量ではあっても、胎児への影響がゼロなわけではありません。そのため、妊娠を希望している前から、小児科と精神科の処方せんをメインで受ける薬局での調剤は避けるといいです。
つわりへの対策のため、薬局の調剤環境を聞くべき
また、実際に妊婦が働くことを考えるとき、妊娠中であっても問題なく勤務できる環境の調剤薬局やドラッグストアであるか、必ず転職サイトを通じて事前に確認しておくといいです。妊婦だと、つわりなどで体が言うことを聞かないからです。
例えば、以下のような確認すべき項目があります。
・座って服薬指導(投薬)が可能か
派遣薬剤師として短期で仕事を行うとき、基本は服薬指導がメインになります。棚にどのような位置で薬が置かれてあるのかについて把握している人はいません。そのため、監査・投薬をすることになります。
このとき、投薬するときに立って行うことになる薬局は多いですが、中には座った状態で服薬指導が可能な薬局も存在します。例えば、以下のような薬局です。
こうした薬局であれば、投薬スペースまで調剤した薬を他の人にもってきてもらい、投薬場所で監査を行い、そのまま患者さんを呼んで服薬指導すれば問題ありません。あなたが席から立たなくても、問題なく仕事をすることができます。
・薬局の広さはどうか
調剤薬局やドラッグストアの中が狭いと動きづらいです。特にお腹をぶつけるわけにはいかないため、狭すぎる薬局だと働きにくいです。
ただ、総合病院の前にある非常に大きな薬局になると、逆に広すぎて歩くのが大変になります。そのため、どれくらいのスペースの薬局なのか事前に確認したうえで勤務するといいです。
・1日の処方せん枚数はどうか
妊婦であるため、忙しすぎて大きなストレスがかかると大変です。そこで、派遣として求人を紹介されるとき、1日の処方せん枚数の量を事前に確認するようにしましょう。
処方せん枚数が多すぎる場合は微妙です。特に妊娠中の中で転職し、求人を紹介してもらう場合は忙しすぎない薬局で働くことを考えるのが適切です。
・電子薬歴になっているか
薬局によっては、電子薬歴ではなく紙の薬歴をいまだに採用している薬局が存在します。妊婦が転職する場合、こうした薬局は絶対に避けるようにしましょう。投薬ごとに紙の薬歴を探し、歩き回る必要があるからです。
そうではなく、電子薬歴のある薬局でなければいけません。さらに欲をいえば、投薬スペースにパソコンが置かれてあり、その場で電子薬歴を確認できる薬局であるといいです。
調剤してもらった薬を投薬スペースまで運んでもらえば、その場で監査し、過去の薬歴を見て患者さんの状況を確認した後、すぐに患者さんを呼んで服薬指導できます。つまり、まったく席から立たなくて問題ありません。
以下のような薬局がこうした実例に当たります。
妊娠中のママ薬剤師が派遣をするとき、ただ求人に応募するだけでは不十分です。薬局がどのような環境になっているのかまで含めて確認しなければいけません。そうすれば、つわりがあっても問題なく産休に入るまで働けるようになります。
ママ薬剤師として転職サイトへ登録する
なお、こうした派遣薬剤師として活躍するためには、必ず転職エージェントを利用する必要があります。転職サイトに登録しなければ、派遣薬剤師の案件は存在しません。
しかし、どのような転職サイトでもいいわけではありません。派遣求人を取り扱っている転職エージェントである必要があります。派遣まで可能な転職サイトは限られているため、適切な転職サイトへ登録しなければいけません。
このとき、転職サイトを1社だけ活用する薬剤師はほとんどいません。多くの人が複数の転職サイトを活用します。
薬剤師の転職では、正社員やパート・アルバイトがどうしてもメインになります。その中で派遣の求人が提示されるわけですが、選択肢をできるだけ多くするために2社ほどの派遣会社(転職サイト)を並行して利用するのが一般的なのです。
もちろん、2社を並行利用したとしても問題なく産休や育休は取得できますし、育児休業給付金も含めて申請することができます。そこで、以下の2つの転職エージェントを利用するようにしましょう。
薬キャリAGENT
非常に多くの求人数を誇ることで有名な転職エージェントが薬キャリAGENTです。派遣求人も広く取り扱っているため、妊娠女性が派遣を考えるときに必ず利用するべき転職サイトとなります。
大手の転職サイトであり、たくさんのママ薬剤師が利用している転職サイトになります。まずは薬キャリAGENTへ登録して、あなたの地域の周辺にある派遣求人を確認するようにしましょう。
お仕事ラボ
転職サイトの中でも、派遣に強みがある珍しい転職エージェントがお仕事ラボです。大手企業グループであり、派遣求人を非常にたくさん保有してます。
前述の通り、派遣求人を探すときは2社ほどの転職サイトを並行して活用するのが普通です。派遣薬剤師に強いお仕事ラボを利用することにより、妊娠中のプレママ薬剤師であっても問題なく勤務できる求人へ転職するようにしましょう。
薬剤師が転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。自分一人では、頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できるだけでなく、病院や薬局、その他企業との交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「電話だけの対応を行う ⇔ 必ず薬剤師と面談を行い、面接同行も行う」「大手企業に強みがある ⇔ 地方の中小薬局とのつながりが強い」「スピード重視で多くの求人を紹介できる ⇔ 薬剤師へのヒアリングを重視して、最適な条件を個別に案内する」などの違いがあります。
これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページで転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。
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インタビュー記事:薬剤師の転職サイト
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