薬剤師にとって人気の職種として病院薬剤師があります。もちろんどのような病院でもいいわけではなく、大病院になるほど多くの新人薬剤師が応募してきます。
田舎の地域であっても、大きな総合病院や大学病院があります。これらの病院は急性期病院として地域の中核を担っています。
それでは、こうした急性期病院へ薬剤師が転職することを考えたとき、どのような注意点があるのでしょうか。
基本は新卒の薬剤師がメインになるため、普通の戦略ではなかなか大病院に採用してもらえません。そこで、薬剤師が急性期病院の求人募集へ申し込み、中途採用で転職するときの秘訣について解説していきます。
もくじ
「人気だが激務」の大病院求人は少ない
多くの薬剤師が目指す急性期病院については、問題なく求人が存在します。このときは薬局や企業などに勤めていたとしても、総合病院の薬剤師として活躍できるのです。激務で忙しいものの、それだけ薬剤師として勉強できるのです。
ただ、実際に転職サイトへ登録すれば分かりますが、こうした急性期病院の求人募集は非常に少ないです。募集自体はあるものの、数は限られると考えましょう。大病院であると転職サイトに募集を出さなくても、若い新卒の薬剤師がたくさん応募してきます。そのため、中途で採用する必要がないのです。
ただ民間の急性期病院であれば、薬剤師の募集が出ていることがあります。例えば、以下は千葉にある500床ほどの急性期病院の求人です。
数は少ないながらも、こうした総合病院の薬剤師として活躍することも可能なのです。もちろん、未経験の状態であっても応募できます。
年齢制限があることに注意する
ただ、こうした総合病院へ転職することを考える場合、年齢制限があることに注意しましょう。どれだけ薬剤師として経験があったとしても、規模の大きい急性期病院では年齢による足切りがあるのです。
一般的には、以下のような年齢制限になると考えてください。
- 病院経験あり:40歳まで
- 薬局での調剤経験あり:35歳まで
- 調剤未経験:30歳まで
例えば、以下は東京にある350床ほどの総合病院です。この病院の場合、応募時に年齢制限が明確に記されています。
このように40歳までとなっています。しかも、病院経験がある人での40歳です。病院経験がない場合、さらに年齢制限は厳しくなります。
慢性期病院や専門病院、ケアミックスなどを考えている場合、特に年齢制限はありません。ただ、何もしなくても新卒薬剤師が勝手に応募してくる急性期病院であると、年齢が上になるほど転職できなくなることを理解しなければいけません。
大学病院の中途採用はほぼなく、難易度が高い
なお、先に示した通り民間の大病院であっても少ないながら中途採用の募集が出されます。このとき、どの時期の転職でも問題なく受け入れてくれます。
しかし、これが大学病院になると非常に難易度が高くなります。まず、転職サイトに登録しても大学病院の求人は存在しません。そのため、自ら公式サイトを調べて応募する必要があります。転職エージェントには、大学病院の中途採用求人は存在しないのです。
さらには、大学病院では民間病院のようにいつでも就職できるわけではありません。採用試験の時期や入社時期が一律で決められています。一応、既卒者について入社時期は要相談となることもありますが、基本的には採用予定日が決められているのです。
当然、小論文や筆記試験、面接などは一律の日程で行われます。例えば、以下は東北大学病院 薬剤部の求人募集になります。
このように採用予定日や試験日が決められているため、事前にこうした情報を確認したうえで自ら応募しなければいけません。もちろん、中途採用の場合だとライバルは新卒の学生たちになります。
一般的に転職では年齢が若いほど価値が高いです。吸収は若い方が早く、夜勤があっても問題なく受け入れてくれます。しかし年齢が高くなるほど、そうした実践が難しくなります。そのため大病院では年齢制限が設けられているのですが、大学病院では転職自体の難易度が高くなると考えましょう。
・産休代替の派遣だけは例外
ちなみに、大学病院では例外的に「産休代替による派遣」であれば広く募集があります。例えば、以下は千葉の大学病院から出された派遣の求人になります。
参考までに、私も派遣薬剤師として大学病院で勤務してみたことがあります。このとき転職サイトからもらった確定のメールが以下になります。
このときは時給3,000円であるため、大学病院に20年以上勤める薬剤師よりも高い給料をもらっての勤務になりました。
学会発表や研究を含め、スキルアップが最大のメリット
なお、なぜ規模の大きな病院が若い薬剤師にとって人気なのかというと、最も大きい理由としてスキルアップがあります。
病院薬剤師であると、病棟業務や注射剤の混注、麻薬の管理など一般的な病院業務は当然ながら経験するようになります。ただ、そうした病院業務以外にも自分独自のスキルアップが可能なことが病院薬剤師のメリットだといえます。
実際、大きな急性期病院になるほど専門薬剤師の資格を保有している人が多くなります。専門薬剤師を取得する要件はそれなりに厳しく、学会発表や研究活動が必要になります。そのため、こうした活動を支援してくれる環境でなければいけませんが、大病院であるほど研究できる環境が整っています。
一般的な病院勤務での仕事に限らず、薬剤師としてさらに高度な専門性を身に着けることができることに、急性期病院の薬剤師として働く意味があります。スキルアップという魅力があるため、若い薬剤師がたくさん応募するようになるのです。
年収・給料で最も冷遇され、収入の低い総合病院薬剤師
ただ、こうした大きな総合病院や大学病院などで勤務するとき、病院薬剤師だと収入面で誰もが厳しい現実に直面するようになります。仕事内容が激務で大変にも関わらず、あらゆる薬剤師の中でも圧倒的に給料が安いのです。
病院薬剤師の収入の低さには定評があり、「規模の大きな急性期病院であるほど給料の額が少なくなる」と考えるといいです。
平均年収でいうと、中小薬局やドラッグストアなら東京・大阪の都市部であっても年収450万円以上でスタートします。長く勤務して頑張れば、年収600万円以上も問題なく達成できます。
しかし、病院薬剤師だと月給24万円以下が普通であり、年収350万円未満となるのはそこまで珍しくありません。例えば、以下は東京にある418床の急性期病院から出された常勤薬剤師の募集です。
ここにある通り、月収は20.7万円からとなっています。年収はボーナスを入れても350万円であり、これが急性期病院の薬剤師として働くときの給料の現実だと考えればいいです。
当然、昇給もほとんど見込めません。あらゆる薬剤師の中でもサービス残業が多く、激務にも関わらず労力に見合った収入を得られないのが、大きな病院で働く薬剤師なのです。
・福利厚生も期待できない
また、調剤薬局やドラッグストア、一般企業で勤務する薬剤師に比べると福利厚生は期待できません。大病院であっても、世間一般的な規模でいえば中小企業レベルです。これが給与の低い薬剤師となると、さらに福利厚生は薄くなります。
基本的に病院薬剤師では、年収や福利厚生の面で期待しないようにしましょう。
仕事内容はきついが手当は薄く、夜勤・当直もある
また総合病院や大学病院で勤務することになると、夜勤・当直が発生するようになります。当然、昼夜逆転で業務を担当することになるので非常に大変です。
場合によっては、当直明けにフラフラになりながら昼まで勤務することもあります。病院薬剤師であると会議を含めたサービス残業が多くなるだけでなく、夜勤も含めた体力面の問題もあります。
しかも、夜勤手当が出るとはいっても非常に少ないです。病院によって夜勤手当の額は異なりますが、7,000~8,000円ほどが一般的です。
ただ、大きい病院であると夜中でも常に救急車が舞い込んでくるようになります。そのため寝られることは少なく、深夜であっても少ない人数で仕事をこなさなければいけません。もし仮眠を取れたとしても、夜中に起こされることは多く夜勤手当の額と労力が見合っていないのです。
まったく労力に見合っておらず、適切な給料・手当が支給されないのが病院での夜勤なのです。これについても、前もって把握しておきましょう。
求人募集の数が少ないデメリット
このように激務で忙しく、圧倒的に安い収入となりますが、待遇が悪いにも関わらず人気なのは薬剤師として勉強できるからです。ただ、既に述べた通り大病院であるほど新人薬剤師からの応募があるため、実際のところ急性期病院の募集は少ないのが現実です。
同じ病院求人であっても、慢性期病院や専門病院、ケアミックスならそれなりに中途採用の求人があります。これらの病院は不人気であり、応募する薬剤師が少ないのです。一方で、急性期の大病院ほど勝手に薬剤師が応募してくるようになります。
こうした現状があるため、中途採用については募集すらしていない病院もあるほどであり、転職サイトでも急性期病院は求人数がかなり減ります。例えば、以下は求人数5万件以上を誇る転職サイトで「総合病院」と検索したときの結果です。
求人数は全国で60件です。病院の求人自体はそれなりにあるものの、それが大きな総合病院となるとそこまでたくさんの募集は出回らないと考えた方がいいです。
病床数の多い病院では、転職サイトの利用が基本
こうした病床数の多い病院ほど年齢による足切りがあったり、中途採用での応募が厳しかったりすることから、どの病院であれば問題なく薬剤師として働けるのか自ら調べても分からないという問題があります。
そのため、規模の大きい病院で学ぶことを考える場合、転職サイトの利用は必須だと考えましょう。転職エージェントであれば、いくつもの急性期病院から求人が寄せられます。こうした求人であれば、確実に応募することができます。
もちろん前述の通り、求人の数が多いわけではありません。そのため、あなたが望む地域で優れた急性期病院の求人を見つけだすため、2~3社以上の転職サイトを利用しなければいけません。転職サイトごとに保有求人が異なるからです。
また、総合病院とはいっても病床数や給与水準はバラバラです。少ない求人の中から最適な募集を選ばなければいけないため、できるだけ多くの求人から選べるように準備しておくのは非常に重要なのです。
・内定を断るのは問題ない
なお調剤薬局やドラッグストアでの転職では、いくつもの会社の面接を受けるのが一般的です。これと同じことは、急性期病院で実施しても問題ありません。むしろ転職に成功する薬剤師であるほど、いくつもの総合病院の面接を受けます。
実際に面接を受けた後は病院見学を実施することになります。そのときに病院内部を見ることができるため、見学すればどのような職場で働くようになるのか完璧ではなくても理解できます。
そうして2~3社以上の転職サイトを利用しながら、いくつもの急性期病院を見て回るようにしましょう。その中から優れた病院へ転職するのが失敗しないコツです。もちろん、内定辞退の連絡は転職エージェントの担当者がしてくれるので心配する必要はありません。
おすすめの魅力ある病院求人の選び方
なお、このとき困るものとして病院の選び方があります。転職サイトに総合病院の中途採用募集が掲載されているとはいっても、どのようにして魅力のある病院求人を選択すればいいのか分からないのです。
これについては、おすすめは以下を基準として選ぶことがあります。
- 病院の規模
- 薬剤師の人数
- 調剤施設・病棟の様子
それぞれについて確認してきます。
・病院の規模
最初に着目するべきは病院の規模です。どれくらいの規模の総合病院で勤務したいのか明確にしましょう。
注意点として、必ずしも病床数が多ければいいわけではありません。入院患者数が増えれば、それだけ数をこなさなければいけないので病棟業務がルーティンワークになることはよくあります。患者さんへ一人ずつ向き合って医療を提供したいのであれば、200床以下の病院の方が優れていることはよくあります。
また、勉強という意味では科数が多いといいです。その科目でしか取り扱わない薬はたくさんあるため、科数が多いと珍しい医薬品についても触れる機会があるからです。
こうしたことを見極めたうえで、病院の規模を確認しましょう。
・薬剤師の人数
また、薬剤師の在籍人数については多いほどいいです。単純にそれだけマンパワーがあるからです。薬剤師数が少なくて大変なことは多いですが、たくさん薬剤師がいて困ることは少ないです。
当然、薬剤師がいればそれだけ夜勤の負担を軽減できますし、有給休暇を取得しやすくなります。薬剤師数については、できるだけ多い総合病院が優れているといえます。
さらには、人数が多ければ専門薬剤師の資格を取得しているなど、特別なスキルをもつ人が多くなります。そうした人に相談することができるため、薬剤師の人数に加えて「どのような技能をもった人が在籍しているのか」も含めて、病院見学のときに確認するといいです。。
・調剤施設・病棟の様子
また、実際に病院内で調剤や病棟業務を担当することになるため、調剤設備・病棟がどのようになっているのかも確認しましょう。
病院によっては古い調剤機器があったり、看護師との仲が悪くて仕事をしにくかったりすることがあります。そうした病院だと働きづらいため、事前に避けなければいけません。
また、当然ながら最も重要なのは一緒に働く人になります。特に薬局長を含め、上司になる人が気難しそうだと働きにくいです。病院内の様子がどうなのか、他の病院と比較しながら見比べましょう。
志望動機(志望理由)を練っておくべき
こうした選び方を理解したうえで魅力ある病院を探していきますが、このときは病院ごとに志望動機を練っておくようにしましょう。
実際のところ、調剤薬局やドラッグストアであれば適当な志望動機で問題ありません。志望理由や自己PRがありふれたものであったとしても問題なく採用にパスできます。薬剤師資格をもっていれば、簡単に転職できるのです。
しかし、これが人気の急性期病院だと話が違ってきます。大きな病院であるほど若い薬剤師がたくさん応募してきますし、求人募集もすぐに埋まってしまいます。そのため、転職理由や志望動機をきちんと考えなければいけません。
特に履歴書の自己PRは以下のように記載場所が狭いです。そこで、200文字ほどで簡潔に記載するのがおすすめです。
このとき、例えば以下のような志望理由になります。
これまで大学病院で薬剤師勤務をしていましたが、循環器の専門病院である貴院で専門性を磨きたいと思い志望しました。 大学病院では研究活動を続けていましたが、主に循環器をテーマに活動していました。ただ、臨床研究という意味ではより循環器に特化した貴院の方が活動しやすく、さらに優れた成果を出せると考えています。 貴院は学会発表にも積極的であるため、より高いスキルを身に付ければと考えています。 |
今回は既に病院で働いている薬剤師を例に出しましたが、当然ながら人によって立場が異なります。「調剤未経験から病院を目指す」「薬局から急性期病院を目指す」などです。そこで、それぞれに応じた適切な志望理由を考えるようにしましょう。
大変できついが、薬剤師の役割が大きい病院薬剤師へ転職する
急性期の大病院で勤務する場合、薬剤師の仕事は非常に大変できついです。忙しく仕事をする必要があり、役割も大きく激務です。それにも関わらず、異常なほど年収が低いという特徴があります。昇給はほぼなく、福利厚生も充実していません。
さらには夜勤・当直があり精神的にも疲れます。そのため待遇面だけで考えると、総合病院や大学病院の薬剤師で働くことについてメリットはゼロです。
ただ、こうしたデメリットがあるにも関わらず多くの若手薬剤師が急性期病院を目指すのは、スキルアップが可能だからです。
確かに大変ではありますが、勉強できることは多いです。病棟ではカルテを見るようになりますし、医師や看護師など他の医療従事者とチームで取り組むことにもなります。こうしたことは調剤薬局やドラッグストア、一般企業では経験できません。
そのため、多少はきつい仕事であってもいいので勉強のために頑張ろうと考えている人にとって、急性期病院へ転職するのは最適です。こうした特徴を理解したうえで、転職サイトを利用して優れた求人へ応募しましょう。
薬剤師が転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。自分一人では、頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できるだけでなく、病院や薬局、その他企業との交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「電話だけの対応を行う ⇔ 必ず薬剤師と面談を行い、面接同行も行う」「大手企業に強みがある ⇔ 地方の中小薬局とのつながりが強い」「スピード重視で多くの求人を紹介できる ⇔ 薬剤師へのヒアリングを重視して、最適な条件を個別に案内する」などの違いがあります。
これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページで転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。
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