薬剤師で主な働き方の一つに派遣があります。フリーランスのように、日本全国から出される派遣求人に対して自由に申し込み、期間限定で勤務する方法が派遣薬剤師になります。
一般的な派遣というイメージとは異なり、薬剤師の派遣は非常に時給が高水準であり高収入を実現できます。そのため、自由な働き方を選択するために敢えて派遣社員を継続する人は多いです。
好きな時間だけ働き、勤務する曜日を選ぶことができ、時給3,000円以上で高給料となり、日本全国どこでも勤務地を選べるのが派遣です。ただ、フリーランス薬剤師ではこうしたメリットがある反面、デメリットもあります。
それでは、自由に休みを作れて年収も高い派遣薬剤師として働くのは実際のところどうなのでしょうか。ここでは、派遣として働くフリーランス薬剤師の実情・裏話も含めて解説していきます。
もくじ
派遣は転職サイトに所属し、薬局・病院で働く
派遣薬剤師として転職したり求人を探したりする前に、そもそも派遣とは何かについて理解しなければいけません。正社員と派遣の一番大きな違いは、働き先の企業と直接雇用の関係にあるかどうかという点です。
正社員やパート・アルバイトであれば、就業先の企業に直接雇われていることになります。そのため、給料は実際に働いている調剤薬局やドラッグストア、病院、企業から支給されます。
一方で派遣薬剤師となると、派遣会社(転職サイト)との契約になります。あなたに給料を支払うのは派遣会社ですし、社会保険などの手続きも派遣会社が行います。あなたは派遣会社に登録しているため、就業先の企業(薬局や病院など)と雇用関係にあるわけではありません。
このとき正社員やパート・アルバイトであると、同じ企業でずっと働くことになります。たとえ他の店舗に移ることがあったとしても、必ず同じ企業内です。
それに対して派遣社員であると、それまでの就業先とはライバル関係にある会社で働くことになる場合もあります。どこで働くかは派遣会社から提示される求人先を見て決めることになりますが、契約期間ごとにさまざまな会社を転々とすることが多いのです。
正社員やパート・アルバイトと比べたとき、派遣ではこうした大きな違いがあります。勤務先がまったく違う会社になるのです。
このときは1日だけの単発スポット派遣があれば、半年や1年の長期派遣もあります。どの単位で派遣勤務したいのかについては、自由に選ぶことができます。
年収・給料が高いのは最大のメリット
それでは、なぜ多くの薬剤師が派遣社員を選択するのでしょうか。この一番の理由は高い時給にあります。派遣社員だと高い収入を実現でき、正社員で働くよりも圧倒的に高い給料となるのです。
正社員の場合、東京や大阪などの都市部であると、中小薬局であっても年収450万円ほどからのスタートになります。これが大手チェーン薬局や病院薬剤師になると年収400万円未満です。サービス残業が入って1日9時間ほど働く場合、時給換算すると約1,800~2,100円(年収400~450万円の場合)です。
パート・アルバイトでも時給2,000円ほどが最低レベルであることから考えると、給料面でいえば正社員はそこまで優れているわけではないのが実情です。
一方で派遣薬剤師はどうかというと、時給3,000円以上が普通になります。例えば、以下は東京の調剤薬局から出された時給3,000円以上の派遣求人になります。
時給3,000円の場合、ほぼ年収600万円です。一般薬剤師として普通に薬局勤務をするだけでこうした給料となります。またどれだけ時給が低くても、派遣だと時給2,600円以上となります。正社員よりも優れた給与体系で勤務できるのが派遣です。
当然、これは病院での派遣も同様です。実際、私は東京の大学病院で派遣をしたことがあります。このときは時給3,000円で働くことになりました。以下が実際に転職サイト(派遣会社)から送られたメールです。
正社員の病院薬剤師は非常に給料が少ないことで有名です。ただ派遣では、病院内でかなり役職が上の人よりも高い収入で働くことになりました。
休みや勤務時間を自由に取れるという理由も派遣薬剤師に多い
また、休みの日や勤務時間を自由に設定できるのも派遣薬剤師のメリットです。フルタイムで働いてもいいですが、フルタイム以外の勤務方法も問題なく可能なのです。
薬剤師がフルタイム以外で働く場合、パート・アルバイトがメインになります。ただ、派遣であっても同じように勤務する日や時間を好きなように選べます。
- 午前だけの勤務
- 土日休みの定時退社
- 夜間だけ働く
- 週3日の勤務
こうした日にちや時間の自由な選択についても、派遣薬剤師で実現することができます。例えば、以下は神戸(兵庫)の調剤薬局から出された派遣求人です。
午前だけの勤務も可能であり、昼過ぎには帰宅できます。この中途採用では午前だけに限らず1日勤務も選べるため、あるときは午前だけ働き、他の日は1日勤務することも可能です。
・長期休暇も取得可能
また、正社員でもパート・アルバイトで長期休暇を取得することは物理的に不可能です。少なくとも、1ヵ月以上の休みを取ることはできません。一方で派遣社員としてフリーランス薬剤師をする場合、半年や1年ほどの長期休暇を作ることも可能です。
派遣の場合、次の求人を入れなければ休暇をいつまでも取れます。例えば派遣の契約が切れた後、半年ほど派遣求人に申し込まなければ、休みの期間は半年です。この間は日本中や世界中を旅しても問題ありません。実際、世界を旅したいために派遣薬剤師をしている人はそれなりにたくさんいます。
ママ薬剤師であれば、子供の夏休み期間中だけ家にいるために派遣でのフリーランスをする人もいます。休みを自由に作れることは大きなメリットです。
日本全国、どこでも働けるのも派遣をする理由で大きい
特に独身の薬剤師であれば、日本全国どこでも働けることも派遣をする理由として多いです。正社員やパート・アルバイトだと同じ店舗でずっと勤務することになります。一方で派遣になると、契約ごとに勤務地が変わります。
このとき狭い範囲で働いてもいいですし、日本全国のいろんな場所で勤務してみてもいいです。一定期間だけリゾート地に赴くことは可能ですし、3ヵ月だけ僻地医療を経験しても問題ありません。
場所を選ばず、全国のどこでも勤務できるのは派遣で働くフリーランス薬剤師のメリットです。
・福利厚生は薄いが住宅付きの高額求人は存在する
このとき、派遣では「出稼ぎのフリーランス薬剤師を対象にした求人」が出されます。主に田舎にある調剤薬局やドラッグストア(調剤併設ドラッグストア)で出されますが、時給が非常に高いだけでなく、さらには住宅が用意されているのです。
一般的に派遣社員だと福利厚生が正社員に比べて非常に薄いです。最低限の福利厚生しか用意されていません。ただ、求人によっては家賃ゼロで家に住むことができたり、交通費を出してくれたりするのです。
例えば、以下は京都にある調剤薬局から出された派遣求人ですが、住宅付きの高額派遣となっています。
時給4,500円であり、この薬局でフルタイム勤務する場合は以下のような月の給料になります。
- 時給4,500円 × 1日9時間 × 月20日(週5日勤務) = 81万円(年収972万円)
人によっては、「住宅付きの派遣求人で日本全国の薬局・病院を経験し、たまに長期休暇を作って海外へ行く」などの生活を実現している人もいます。自分の家を持たずに、自由に日本全国や世界をフラフラと旅しながら働くことも可能になるのです。
あなたが実現したいあらゆるライフスタイルを可能にするのが派遣薬剤師だといえます。
急に契約満了になるデメリットは実際にある
それでは、実際のところメリットばかりなのかというと、当然ながらそのようなことはありません。派遣の実情や裏話を理解し、デメリットまで考慮する必要があります。
まず、契約が切れた後に「同じ職場で働きたい」と考えていたとしても、無理なことは多いです。相手企業が短期のヘルプ要因として派遣薬剤師を雇っていた場合、契約期間が切れた段階で働けなくなります。
派遣薬剤師の時給が高いということは、相手企業はそれだけの高額の給料を支払わなければいけません。さらには、派遣会社への手数料の支払いも必要です。
派遣へ依頼するよりも、正社員を自ら雇った方が安上がりです。多くの場合、派遣は新たに正社員やパート・アルバイトを雇えるようになるまでのつなぎであるため、相手企業が薬剤師を雇うことができれば契約満了と共に切られます。これはつまり、正社員とは違い「雇用が安定していない」ことを意味しています。
自由度の高さから考えれば、「派遣 > パート・アルバイト > 正社員」の順になります。ただ、安定度合いは、「正社員 > パート・アルバイト > 派遣」となるのです。もちろん複数の派遣会社(転職サイト)を利用していればすぐに新たな求人を紹介してもらえますが、同じ場所でずっと勤務することはできないのです。
・仕事を覚えても、一過性となる場合が多い
そのため、数ヵ月ごとに違う職場で働くようになるのが普通です。この場合、仕事を覚えたとしてもゼロからやり直しになってしまいます。
薬局ごとにルールが異なり、こうした細かいルールや違いについてはゼロから覚え直す必要があるため、職場を移動するごとに頑張って新しい職場の仕事に慣れる必要があります。
ちなみに調剤薬局で1ヵ月ほどの短期派遣であると、基本は監査・投薬の仕事を行います。棚にある薬の位置を最初から覚えるのは非効率なので調剤はしません。
病院での派遣でも同様に、粉薬の調剤や薬の監査など、現場での仕事に慣れていなくてもすぐに行える仕事を担当することになります。派遣先に赴いた後、誰でもできる仕事を任されるのが派遣薬剤師の実情です。
調剤未経験だと使えないので派遣が難しい
また、派遣薬剤師は誰でも可能なわけではありません。調剤未経験の人では難しくなっています。理由は単純であり、派遣では即戦力を求められているからです。既に調剤経験が1年以上あって、患者さんに対して問題なく投薬(服薬指導)できる人が派遣をすることができます。
調剤薬局の派遣では主な仕事が服薬指導です。場合によっては調剤メインの職場はあるものの、一般的には投薬ばかりになると考えましょう。そうしたとき調剤未経験の人だと投薬ができず、使えないのが実際のところです。
仕事ができない以上、未経験の状態で派遣に応募することはできません。時給が高いからといっても、新卒や調剤未経験の薬剤師がいきなり派遣によるフリーランスが可能なわけではないのです。
ただ、当然ながら求人によっては例外もあります。本当の意味で薬剤師が足りていない薬局では、未経験であっても派遣薬剤師を募集していることがあるのです。例えば、以下の京都にある調剤薬局がこれに該当します。
このように、時給3,000円と高いです。ただ、当然ながら短期でこうした求人へ応募するのではなく、未経験では長期(半年や1年以上)で働くことを考えなければいけません。また、週の勤務時間は多めが適切です。そうしないと仕事に慣れることができず、ずっと使えない状態になってしまいます。
こうしたことを理解したうえで、一般的には経験者が派遣をすることになります。また、未経験の場合は派遣特有の「勤務形態の自由度」は少し落ちると考えましょう。ただ、高時給については同様に確保できます。
派遣社員では薬剤師としてスキルアップができない
また派遣薬剤師のデメリットとして、薬剤師としてのスキルアップができないことがあげられます。
どの派遣薬剤師でも共通しますが、知識や能力を高めることはできません。管理薬剤師のようにクレーム対応や必要書類の管理などを任されることはないのです。病院で派遣をするにしても、高度な薬剤師業務を担当するわけではありません。
そのため、高いレベルの薬剤師を目指したり、会社のマネジメントまで考えていたりする場合、派遣薬剤師は不適だといえます。
しかし、薬剤師のエキスパートを目指す予定がないのであれば派遣薬剤師でも問題ありません。パート・アルバイトでも同様に重要な仕事は任されませんが、派遣として働くときに学べる能力・スキルはパート薬剤師と同程度だと考えるといいです。
独身の人であったり、子育て中のママ薬剤師だったりする場合、仕事以外のいましかできないことを優先する人は非常にたくさんいます。そうしたとき、フリーランスで派遣社員をするのです。
派遣薬剤師への転職に向いている人の特徴
参考までに、派遣薬剤師に向いている人としてはどのような人が該当するのでしょうか。これには、主に以下のような人が当てはまります。
・多くの店舗で経験を積みたい
中には、たくさんの店舗を経験することでキャリアを積みたいと考えている薬剤師もいます。どの職場が適しているのかについては、実際に経験しなければわかりません。そこで、さまざまな職場を派遣薬剤師という立場を利用して体験するのです。
調剤薬局であっても、科目(内科、小児科、精神科、眼科など)によって薬の内容は大きく異なります。病院やドラッグストアなど、勤務先によっても形態が違います。
また、派遣には大学病院での案件もあります。こうした通常では経験できない職場であっても、派遣薬剤師であれば経験を積むことが可能です。
・夫の転勤が多い
他の事例としては、結婚している女性薬剤師の中で「旦那の転勤が多く、しかもいつ異動になるか分からない」というケースもあります。こうしたとき、最初から派遣薬剤師として働くようにするのです。
転勤が多い場合、正社員での勤務は無理です。また、パート勤務でも働く場所は同じ店舗で固定されます。
一方で派遣社員であれば、急な転勤があったとしてもすぐに対応できます。長期派遣であっても、一般的には1ヵ月ごとの更新などになるため、そのときに契約更新しないことを伝えるだけで円満に住む場所を移れます。しかも、パート薬剤師よりも時給は圧倒的に高額です。
・妊娠、出産を検討する女性薬剤師も派遣はメリットが大きい
これから妊娠・出産を考えている女性薬剤師についても、派遣をするメリットは非常に大きいです。派遣であると好きなように休みを作ることができるため、育児後の復帰は自分の好きなタイミングで行えます。
これが正社員やパート・アルバイトであると、法律で認められている育休は1年だけです。また、育休後に復帰しない場合、育休中の給付金は受け取ることができず収入がゼロになります。
一方で前もって派遣で働いておけば、問題なく産休や育休での給付金を受け取ることができます。さらには復帰時期も自由に決めることができます。しかも、子供の成長に合わせて勤務時間や働く場所を変えられます。
こうした実情があるため、事前に派遣社員として働くようにする女性薬剤師がたくさんいるのです。
・自由に仕事をしたい
長期休暇を作って長い休みを取りたかったり、日本全国で場所に捉われず好きなように働きたかったりなど、自由に仕事をしたい人の場合、ほぼ全員が派遣でのフリーランスを選びます。実際のところ、こうした勤務方法を実現できるのは派遣社員だけだからです。
派遣であれば、田舎の薬局で住宅付きの求人がそれなりにたくさん出されています。しかも、高額求人です。
こうした薬局や病院で仕事をしながら、特定の場所に縛られない勤務方法を実現したいのであれば派遣薬剤師が向いています。
フリーランス薬剤師として転職サイトで派遣勤務する
全国どこでも勤務でき、休みも自由に設定できるため、派遣社員を希望する薬剤師はたくさんいます。フリーランスとして調剤薬局やドラッグストア、病院へ勤務することになりますが、自由度のメリットは非常に多いのです。
ただデメリットを含めた実情・裏話を理解したうえで、こうした派遣求人を選ぶようにしましょう。
なお派遣薬剤師をする場合、必ず派遣会社(転職サイト)に所属する必要があります。薬剤師専門の転職エージェントはいくつもあります。ただ、派遣求人を取り扱っている転職サイトでなければいけません。
こうした転職エージェントとしては、有名な転職サイトには薬キャリAGENTとお仕事ラボがあります。当然、転職サイトごとに保有求人は違います。「高い時給」「家の近く」「勤務の自由度」「住宅手当の有無」などを含め、優れた条件で派遣をするために2社を並行で活用しながらフリーランスで活躍するのが基本になります。
そこで、派遣を検討している場合は以下の2つへ登録し、どのような求人が出されているのか確認するようにしましょう。
・薬キャリAGENT
トップクラスの求人数を誇ることで有名な転職サイトが薬キャリAGENTです。派遣を取り扱っている転職エージェントであり、派遣薬剤師をするのであれば最初に登録しなければいけません。
派遣の場合、どれだけ多くの求人の中から選べるのかが最重要になります。そのため、まずは薬キャリAGENTを利用するようにしましょう。
・お仕事ラボ
転職サイトの中で派遣に強みがあるという、珍しい転職エージェントがお仕事ラボです。大手の転職サイトでもあります。
派遣に強いことから、転職サイトの担当者は「転職希望者が、どのように派遣求人を取り扱えばいいのか」について熟知しています。お仕事ラボを並行して活用することで求人数を増やし、多くの選択肢から選べるようにしましょう。
薬剤師が転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。自分一人では、頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できるだけでなく、病院や薬局、その他企業との交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「電話だけの対応を行う ⇔ 必ず薬剤師と面談を行い、面接同行も行う」「大手企業に強みがある ⇔ 地方の中小薬局とのつながりが強い」「スピード重視で多くの求人を紹介できる ⇔ 薬剤師へのヒアリングを重視して、最適な条件を個別に案内する」などの違いがあります。
これらを理解したうえで専門のコンサルタントを活用するようにしましょう。以下のページで転職サイトの特徴を解説しているため、それぞれの転職サイトの違いを学ぶことで、転職での失敗を防ぐことができます。
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インタビュー記事:薬剤師の転職サイト
・ファーマキャリア
薬剤師求人の中でも、「どこにも載っていない難しい案件」を探すことに特化した、オーダーメイド求人の発掘を行っているファーマキャリアさまへ取材しました。