女性が多い職種として薬剤師があります。薬剤師全体の6割ほどが女性であり、どうしても薬剤師の職場では女性比率が高くなります。
このとき、女性であると男性のようにずっと同じ職場で働き続ける人はほぼいません。結婚や妊娠・出産などライフステージが変化するイベントがありますし、子供が成長していく過程に応じて適切な働き方が変わってくるようになります。
当然、働き方が違えば得られる収入は違ってきます。転職するときであっても、優れた職場を見極めなければいけません。
そこで、どのようにして女性薬剤師が最適な働き方を実現してキャリアを形成すればいいのかについて解説していきます。
もくじ
女性が調剤薬局・ドラッグストアへ転職する理由
薬剤師が転職を考えるとき、「人間関係が悪い」「他の仕事にチャレンジしてみたい」などの理由で転職することは多いです。ただ、これらは女性に限らず男性薬剤師でも同様にこうした理由で転職します。転職時の理由として、こうしたものは珍しくありません。
一方で女性薬剤師の場合、女性特有の理由によって転職活動をすることが多いです。このとき、ライフステージごとに大きく以下の3つがあります。
- 結婚後の転職
- 妊娠・出産での転職
- 子供が成長後、年収・給料を見直すための転職
このときの転職では、調剤薬局・ドラッグストアへの勤務を目指す女性が大多数です。最も就職先が多く、さらには勤務方法の融通が利くからです。病院では「午前中だけ働く」などの求人は稀であるものの、薬局であればそうした働き方が普通です。
それでは、女性薬剤師が転職をする理由について段階ごとに確認していきます。
結婚後はキャリアを見直す最初の段階
女性が結婚するとき、多くの人が同時に転職を検討します。もちろん中にはキャリアを見直すことはなく同じ職場で働き続ける人もいます。しかし、実際のところ働き方を考える人が大多数なのです。
結婚での離職理由で特に多いのが「いまの職場は、育児に理解がない」ことです。病院薬剤師だとほとんどの職場で仕事が大変ですし、調剤薬局・ドラッグストアであっても融通が利かず妊娠中に非常に苦労する会社はたくさんあります。
そうしたとき、妊娠前に早めに転職しておくことはメリットが多いです。
病院だと平気で夜勤がありますし、薬局でも正社員で夜遅くまで働かなければいけない職場はたくさんあります。そうした職場で働いている中、妊娠すると体に大きな負担がかかるようになります。
特に頑張りすぎると切迫早産・流産を引き起こす危険性も高くなります。しかし実際に妊娠した後に転職を検討しても、妊婦を受け入れてくれる職場は存在しません。そこで、妊娠したとしても問題なく勤務できる職場へ先に転職しておく女性が非常に多いのです。
また、産休・育休の後に辞める場合は出産手当金などを受け取ることができません。つまり、育休中は収入ゼロです。一方で結婚後に早めに転職しておけば、こうした給付金も含めて全額受け取ることができます。これも、結婚後に早めに職場を変更する女性薬剤師が多い理由です。
結婚後、子供の予定がゼロで今後も生む気は一生ないのであれば特に転職は考えず、現状維持でも問題ありません。ただ、そうでない場合は結婚後すぐにでも転職するのが最適です。
妊娠・出産によって転職するママ薬剤師がほとんど
本来であれば早めに転職しておくのが適切ですが、中には実際に妊娠して「いまの職場は残業もたくさんあり、働き続けることができない」と認識した後、ようやく働き方を見直す女性薬剤師もたくさんいます。
このとき、既に妊娠してしまった場合は仕方ないので、母親になった後に自身のキャリアを形成できる職場を選ぶようにしましょう。
重要なのは、転職先が以下の条件を揃えているかどうかになります。
- 育休を1年以上認めてくれるか
- 時短勤務の例外が可能か
- 看護休暇があるか
法律では、育休は1年認められています。また、正社員であっても時短勤務を子供が3歳になるまで認めなければいけないと法律で定められています。
ただ、実際のところ育休の延長が必要になることはありますし、時短勤務についても子供が小学校に上がるまでは必須です。子供が3歳になった瞬間にすべてのことを自分一人で行えるようになることなどあり得ないからです。
そこで、法律に定められた最低限の内容だけでなく、「子育てに関する特例」を認めている職場を探すようにしましょう。例えば、以下の東京にある調剤併設ドラッグストアでは育休や時短勤務の例外を認めています。
このように、希望すれば子供が1歳半になるまで育休を取得できますし、小学校6年生まで時短勤務できるようになっています。
これに加えて、子供が急に発熱したなどの理由であっても休みを取得できる看護休暇まで備えている調剤薬局だと最適です。数は少ないものの、探せばこうした調剤薬局を見つけることは可能です。
例えば以下の薬局では、子供が小学校3年生の年度末になるまで看護休暇を認めています。
薬局ごとに経営方針は大きく異なります。既にこうした職場へ勤めているのであればいいですが、そうでない場合は育児を安心して行える職場への転職を検討しましょう。
パート勤務で柔軟な働き方が可能な職場を探す
なお、正社員ではなくパート勤務を考える女性薬剤師も多いです。実際に妊娠・出産した後はフルタイムで働くのではなく、週2~3日など自分の好きなときに働くことを考えるのです。
実際のところ、薬局内で働く薬剤師の中で正社員よりもパート女性のほうが多いのは普通です。そうした調剤薬局・ドラッグストアはたくさんあります。
このとき、たとえパート勤務であっても先ほどの「時短勤務の例外規定」などを認めてくれる職場を探すようにしましょう。正社員に対して育児をしやすい環境を整えている調剤薬局であれば、当然ながらパート女性についても同様に子育てしやすくなっているからです。
また、勤務時は以下の希望(許容)条件を必ず確認するといいです。
- 自宅・保育園から薬局までの距離はどれくらいまで可能か
- 残業はあってもいいのか。定時退社は必須か
- 何時まで勤務したいのか(午前だけ勤務も可能)
- 週に何日ほど働きたいのか
フルタイムの正社員とは異なり、パートだとその人の希望に応じて多様な働き方が可能になります。人によって求める条件は異なるため、どのような勤務方法が適切なのかを考えたうえで最適な求人を見つける必要があります。
例えば、以下は東京の調剤薬局から出された中途採用の求人であり、午前のみや午後のみの勤務でも可能になっています。
当然、薬局によって時給や勤務形態は異なります。取り扱う科目によって忙しさも違ってきます。そのうえで応募するべき求人を発掘するといいです。
子供が成長後は平均年収・給料を考慮して転職する
こうして子育てをしていくことになりますが、子供がある程度まで成長したらひと段落つきます。少なくとも、時短勤務を継続する必要性はなくなります。
そして、他の問題が起こるようになります。それは、お金です。子供が成長すると、進学費用など多額のお金がどうしても必要になるのです。そのため「ブランク明けに復帰する」「パートから正社員になる」「パートでの勤務日数を増やす」などを多くの女性薬剤師が働き方を検討し直します。
一般的に育児に理解のある職場というのは、時短勤務や定時退社などゆるい働き方を認めてくれる会社になります。そうしたゆるい働き方の場合、収入の相場はどうしても下がってしまいます。
もちろん、非常に理解のある薬局であるために「パートから正社員になり、多少は残業があっても問題ない」という条件を女性薬剤師のほうから示したとき、それなりに高い給料を薬局側が提示してくれるのであれば問題ありません。
しかし、そうした会社は現実的に非常に少ないです。また、薬剤師の中で金銭面での交渉能力(年収アップの交渉)に長けている人はほぼいないため、同じ会社で働き続けるとどうしても低い年収で勤務し続けることになってしまうのです。
こうした現状があるため、転職によって年収の優れた薬局を探す女性が多くなります。
・女性の平均年収から最適な職場を探す
参考までに、厚生労働省が発表している女性薬剤師の平均年収は以下のようになっています。
平均年収 | 平均月収 | 年間賞与 | |
25~29歳 | 420.6万円 | 30.5万円 | 54.5万円 |
30~34歳 | 475.4万円 | 33.3万円 | 74.8万円 |
35~39歳 | 539.1万円 | 37.2万円 | 91.9万円 |
40~44歳 | 529.2万円 | 37.7万円 | 75.7万円 |
45~49歳 | 598.7万円 | 41.7万円 | 97.4万円 |
※都道府県ごとの地域差は考慮されていません
この表では、地域差などは考慮されていないので参考程度に留めなければいけません。また、パートではなく正社員での平均年収となっています。ただ、ここから「いま働いている薬局の収入」「転職・復帰を検討している会社」の給料が適正かどうかを判断する材料になります。
一般的に未経験の薬剤師が中小薬局へ転職する場合、平均年収は450万円です。また、経験者の薬剤師なら年収500万円以上になります。
ただ、大手チェーン薬局だと年収400万円未満が普通なので、会社規模によって提示される収入は大きく異なります。薬剤師は会社規模が大きくなるほど年収が低くなるため、一般的には中小薬局への就職を考える女性薬剤師が多いです。
いずれにしても、ある程度まで子供の手が離れたらお金の問題によって転職を検討する女性薬剤師が非常に多くなります。このとき、上記の平均年収の表と照らし合わせながら求人先を検討しましょう。
派遣によって、そのつど働き方を変える方法もある
なお、薬剤師としての働き方を考えるのであれば、必ずしも正社員やパートでなければいけないわけではありません。派遣薬剤師という選択肢もあります。
派遣の場合、派遣契約ごとの勤務になります。1日単位のスポット派遣から、半年や1年などの長期派遣まで内容はさまざまです。
派遣だとパート薬剤師と同じように自由な働き方が可能です。フルタイムに限らず、「午前だけ」「週3日だけ」「残業なしの定時退社」などのような勤務方法であっても問題なく実現することができるのです。
さらに契約が切れた後、勤務方法を自由に変えられるのが派遣薬剤師の特徴です。「それまでは午前中だけの勤務にしていたが、来週から子供が小学校高学年になるので勤務日数を増やす」などのように考え、より長く働ける派遣求人を選ぶなどが可能になります。
要は、自分のライフステージに合わせて派遣求人を選択できると考えればいいです。
しかも時給は高額です。東京や大阪などの都市部であっても時給3,000円以上となるため、時給換算では正社員で働くよりも圧倒的に時給が高くなります。例えば、以下は横浜(神奈川)の調剤薬局で出された派遣求人です。
特に代わり映えしない普通の薬局求人ですが、派遣としての就業なので時給3,050円以上です。
派遣であるため、「子供が夏休みに入るので、その間は自分も休みを取って子供と一緒に過ごしたい」と考え、夏の間だけ仕事を入れないという働き方であっても問題ありません。正社員やパートだと無理ですが、派遣だとこうした自由な勤務方法が可能になります。
薬剤師のキャリアを磨くなら科目まで検討する
なお、女性薬剤師が転職先を検討するとき、調剤薬局やドラッグストアの科目まで含めて転職先を検討するといいです。仕事が大変すぎる科目に転職してしまうと後で後悔するからです。
薬剤師の転職の中でも、特に仕事内容が大変になりがちな科目として小児科があります。
小児科だと粉薬や水剤など面倒な処方せんが非常に多くなります。また、妊婦であると粉薬を調剤するときに粉が舞うことになるため、健康面の影響を考えストレスを感じるようになります。
また、子供への服薬指導は大変です。親に薬の使用方法を説明するにしても、子供の具合が悪いので同じことを何度も聞き返すようになります。これが冬になると、風邪やインフルエンザで薬局内があふれかえるようになります。
薬局の中でも、小児科は忙しくなりやすい要素が詰まっているのです。それでいて、特に年収が高いわけではありません。
こうした現状があるため、ゆったり仕事を考えている女性薬剤師にとって小児科への転職は向いていません。その他の科目へ就職するほうがいいです。
楽な職場は処方せん枚数に依存する
それでは、正社員やパート・アルバイト、派遣として働くときにどのような職場だと楽になりやすいのでしょうか。これについては、すべて処方せん枚数に依存すると考えましょう。
処方せん枚数が多くなると、当然ながらそれに伴って薬局内は忙しくなりやすいです。一方で処方せんが少ない場合、ゆったりと仕事を進めることができます。どれだけ落ち着いて仕事ができるのかについては、すべては1日の処方せん枚数によるのです。
例えば処方せんを1日40枚ほど受け取る調剤薬局の場合、2人体制になることが多いので一人当たり1日20枚です。こうした求人なら非常にゆったり仕事をすることができます。例えば、以下は1日40枚ほどの処方せんを受け付ける薬局の求人募集です。
こうした求人はそれなりにたくさんあるため、女性薬剤師としてのキャリアを考え、落ち着いた環境で働きたいのであれば処方せん枚数の少ない薬局が最適です。
さらにいうと、一般的に眼科や整形外科の処方せんをメインで受ける調剤薬局の場合、仕事内容は楽になりやすい傾向にあります。いずれにしても、科目や処方せん枚数を確認したうえで転職先を検討しましょう。
なお、処方せん枚数が少ないと薬剤師の在籍人数が減るため、替えが利きにくいという問題点はあります。そういう意味では、忙しくて大変な薬局であるほど薬剤師の人数が多くシフトを調節してもらいやすくなります。
ゆったり求人を望むのか、休みの取りやすさを希望するのか、事前に決めておくようにしましょう。両方を実現するのは難しいため、転職時は優先順位を明確にしておく必要があります。
婦人科や美容メインの処方せんでキャリアを磨くのも可能
なお、女性ならではの専門性を目指しても問題ありません。例えば、婦人科領域の処方せんを受け付ける調剤薬局で働くという方法もあります。
女性であると、女性特有の疾患に悩まされることがあります。また、そうした病気や妊娠・出産を経験しているからこそ婦人科を受診する女性に適切な服薬指導をすることができます。
一般的にこうした産婦人科メインの調剤薬局だと、男性薬剤師よりも女性薬剤師のほうが適切です。婦人科を受診する女性患者は特有のデリケートな悩みを抱えているため、男性薬剤師ではなく女性薬剤師のほうが相談に乗りやすいからです。
例えば、以下は京都の調剤薬局から出された求人募集です。
産婦人科では不妊治療や女性特有の病気を含め、女性だからこそ分かる問題は多いです。そうしたとき、女性薬剤師が活躍できます。
・美容系だと漢方薬メインになる
なお、女性患者メインの処方せんを受け付ける調剤薬局としては、他にも美容クリニックの門前薬局があります。美容に悩みをもつ女性に対して服薬指導することになるのです。
特に美容クリニックの薬局であると、取り扱う薬は西洋薬というよりもメインは漢方薬になります。美容の問題に関わる薬は漢方が主なのです。
このときはツムラの漢方薬に限らず、薬局によってはハーブや漢方茶を含めて自費治療での提案をすることもあります。特に健康志向で漢方やハーブについても学んでみたい女性であれば、こうした調剤薬局で知識を付けるのもおすすめです。
例えば、以下は福岡にある美容皮膚科メインの処方せんを受け付ける調剤薬局の求人です。。
美容外科クリニックなので少し特殊な中途採用の募集にはなりますが、こうした調剤薬局・ドラッグストアの求人も存在します。
もちろんこうした薬局ではなく、一般的な内科の処方せんを受け付ける調剤薬局であったり、眼科・整形外科のゆったり仕事を希望したりしても問題ありません。ただ、女性薬剤師としての経験を活かしてキャリアを磨き、より勉強して専門性を高めたいのであればこれら特殊な求人を選んでも問題ありません。
女性は大変だからこそ、転職先を検討するべき
男性に比べて、女性ではライフステージの変化がどうしても大きくなります。そうしたとき、できるだけ早めにいまの職場を見直し、転職を検討することが必要になります。
病院薬剤師で忙しく働いていたり、育児に対して理解のない薬局で勤務していたりする場合、結婚後は早めに職場を変えた方が圧倒的に働きやすくなります。妊娠前に行動する人のほうが転職で成功しやすいのです。
また、転職の決断が遅くなって妊娠・出産後に転職活動をすることになったとしても、同様に早く行動に移して育児に理解のある薬局を探すようにしましょう。場合によっては派遣薬剤師によって、そのつど働き方を変えるという方法でも問題ありません。
ただ、子供が成長してある程度まで手が離れた場合、進学などでお金が必要になるので働く時間を増やす必要があります。
このように子供の成長に合わせて、女性は働き方を変化させる必要があります。ライフステージに合わせて勤務方法を変化させなければいけないため大変ですが、それに合わせて転職活動をするといいです。そうすれば、女性薬剤師としてキャリアを積みながら働けるようになります。
薬剤師が転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。自分一人では、頑張っても1~2社へのアプローチであり、さらに労働条件や年収の交渉までしなければいけません。
一方で専門のコンサルタントに頼めば、100社ほどの求人から最適の条件を選択できるだけでなく、病院や薬局、その他企業との交渉まですべて行ってくれます。
ただ、転職サイトによって「電話だけの対応を行う ⇔ 必ず薬剤師と面談を行い、面接同行も行う」「大手企業に強みがある ⇔ 地方の中小薬局とのつながりが強い」「スピード重視で多くの求人を紹介できる ⇔ 薬剤師へのヒアリングを重視して、最適な条件を個別に案内する」などの違いがあります。
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